「瞳は静かに」

knockeye2012-01-09


 パンフレットのダニエル・ブスタマンテ監督のインタビューから、脚本のアイデアについて

 私は、映画の舞台と同じ、サンタ・フェ出身ですが、数年前、あるテレビのドキュメンタリーで、軍事政権時代、情報局の地下組織があったことを知ったのです。
 そこに何ヶ月も監禁されていた女性が出ていました。彼女は、長期に渡る監禁と拷問の結果、時間や空間の感覚を失っていました。彼女と外の世界をつないでいた唯一のものは、向かいにあった学校のチャイムと、校庭で遊ぶ子どもたちの声でした。
 その音で、彼女は昼なのか、夜なのかが分かり、朝一番のチャイムがなるときに
「あと1日生きよう」
と声高に自分に言い聞かせたそうです。
 その女性が、いつ頃から、どこに監禁されていたかを語ったとき、背筋が冷たくなりました。その学校とは、私が通っていた小学校だったからです。
 当時、小学校4年生。学校の向かいのビルに彼女が監禁されていた。彼女が聞いていた子どもの声のなかに、自分の声も混じっていたはずだ。そう思うと、頭から離れず、親族が集まった夕食会で、その話をしたのです。
 すると、親戚のひとりが言いました。
「ああ、私たちは知っていたよ」と。
 それが、当たり前のようにサラッと言ったことに衝撃を受けました。
 そのときに思ったのです。これは、物語だ、と。
 監禁された女性の物語ではなく、日々の現実のなかに恐怖を組み込み、それを当たり前のこととして生きる、と決めた地域の人々の物語だと。
 それを書かずにはいられなかったのです。

 今年の映画初めの一作だが、今年はおそらく、これを越える映画に出会えるとは思えない。
 この映画は、ほかでもない、まさに今の私たちを射抜いている。