ストリート・ライフ ヨーロッパを見つめた7人の写真家たち 

knockeye2012-01-31

 とりまぎれて書き忘れたけれど、9日に、東京都写真美術館の「ストリート・ライフ ヨーロッパを見つめた7人の写真家たち」という写真展を見た。
 展覧会の概要を美術館のサイトから引用すると

 本展では、当館で2004年に開催した「明日を夢見て〜アメリカ社会を動かしたソーシャル・ドキュメンタリー」展のヨーロッパ版となる展覧会として、イギリス、ドイツ、フランスで19世紀後半から20世紀前半に展開したソーシャル・ドキュメンタリー写真に焦点をあてます。
 ヨーロッパでも社会改良の手段としての写真は見られましたが、国家プロジェクトのキャンペーンなどによって、ソーシャル・ドキュメンタリー写真が有効に機能したアメリカとは異なる展開を見せました。
 ヨーロッパでは近代化に伴い急速な変化を遂げる都市のすがたを記録として残そうと、消えゆく街角や生活風景などが記録されました。そうした都市風景の記録写真は、失われていく歴史を後世に伝えるために写し留めています。
 当時の時代背景や地域性に目を向けながら、記録精神が紡ぎ出したヨーロッパのソーシャル・ドキュメンタリー写真の優れた感性や創造力を、この分野のパイオニアであるトーマス・アナン、ジョン・トムソン、ビル・ブラント、ブラッサイ、ウジェーヌ・アジェ、アウグスト・ザンダー、ハインリッヒ・ツィレの7人の写真家たちの作品から見ようとするものです。

 ここにある‘アメリカを動かしたソーシャルドキュメンタリー’は、具体的に言えば、去年、葉山の美術館で見たベン・シャーンが、カメラマンとして参加していた‘FSA(農村安定局)の写真’と呼ばれる、16万枚にも及ぶ国家プロジェクトとしての写真のことである。
 写真がそうした啓発啓蒙の役目を担わされるのは、カメラが、絵筆に比べて、事実に忠実であると期待されているからだろう。
 他ならぬその‘事実への忠誠’いわば、‘レンズの公平さ’は、農家の窮状を伝えたり、貧民窟の悲惨さを訴えたりの機能に対してさえ、やはり公平で、そして、100年近い歳月にさえ公平であることが分かる。
 つまり、レンズの公平さは、写真家たちの意図を越えて、おそらく、当時、モデルやその写真を見た人にとってさえ、あまりにありふれていて意識にのぼりもしなかったさまざまなこと、窓の形、看板の字、人のいでたち、もののたたずまい、までも正確に写してしまう。
 その意味でたしかに、展覧会のプロローグにあるように、これらの写真のなかに「見えないものまでも見えている」といえるだろう。裏返して言えば、人の目は、レンズほど公平にものを見ない。
 ソーシャルドキュメンタリーとして、誰かが写真に‘貧困’とか‘困窮’といった意味を押し被せようとしても、結局、写真はそれも含めて‘全部’を写してしまう。
 写真がウソをつかないとは言えないが、写真は、ウソにもホントにも公平だとは言えるだろう。
 具体的に言えば、ロンドンの貧民街の人々を写したジョン・トムソンの写真に‘貧困’をしか見ない目は、思い上がった目である。公平な目は、そこに逞しさやふてぶてしさ、ユーモアさえ見つけるだろう。つまり、そこに人を見つけるだろう。
 結局、そこに人がいる。そのこと以上に重要なことはない。
 困窮しているとすれば、まさにその人であり、救済されなければならないとすれば、それもまさにその人以外にはない。
 その優しさと、政治としての正しさは、厳粛に分け隔てられていなければならない。
 つねに‘全部’である現実を前にしては、正しさと優しさは矛盾しあうが、その矛盾をどの程度の高さで拮抗させているかが、結局その人の品位だと思っている。
 ベン・シャーンは、FSAの写真にかかわって、アメリカのあちこちを訪ねて、さまざまな人と知り合う経験を経て、社会的「理論」が崩れ去るのを感じた。
 多くの場合、自分が正しいと思っている人間は、理論だけを見て人を見ない。自分が優しいと思っている人間は人だけを見て理論を見ない。正しくもなければ優しくもない。どちらもただのバカである。
 チェーホフの言葉を借りれば、‘まるっきり無知か、乃至は、非常に無知’ということになるだろうか。
 ここに↓今橋映子という人の「貧困という制度」という論文があって、パリと英米における貧困についての価値観の違いが面白かった。
貧困という制度ジョージ オーウエル『パリ。ロンドンどん底生活』 フォト∴ジャーナリズム大陸から英国へ 今 橋 映 子 オーウエル『パリ・ロンドンどん底生活』を、ペンギン・ブックス ジョージ 貧困という制度 オーウエル『パリ。ロンドンどん底生活』 フォト∴ジャーナリズム大陸から英国へ 今 橋 映 子 オーウエル『パリ・ロンドンどん底生活』を、ペンギン・ブックス 貧困という制度 ジョージ オーウエル『パリ。ロンドンどん底生活』 フォト∴ジャーナリズム大陸から英国へ 今 橋 映 子 オーウエル『パリ・ロンドンどん底生活』を、ペンギン・ブックス このエントリーをはてなブックマークに追加