「ジヌよさらば〜かむろば村へ」

knockeye2015-04-05

 「ジヌよさらば〜かむろば村へ」はみごとだった。
 なにがみごとって、音楽にたとえると、まず全体を貫いているリズムセクションに乱れがない。ストーリーテリングのリズムがよく、歩調が乱れないので、役者が気持ちよく遊べる。「のっていける」というやつ。だから見ているこっちも気持ちよく笑える。
 わたしお芝居を観ないので、松尾スズキの仕事ってどういう感じか知らなかったんだけど、なるほどさすがだなっていう感じ。
 松田龍平阿部サダヲ松たか子二階堂ふみ西田敏行片桐はいり荒川良々・・・キャストを観ただけでわくわくするってやっぱり大切だと思いませんか?。阿部サダヲ松たか子の夫婦って、西川美和の「夢売るふたり」の夫婦なんだけど、松たか子の無意味に色っぽい感じがすごく面白かった。
 今回は松田龍平のコメディアンぶりが秀逸。「舟を編む」とか、「探偵はBARにいる」とかでも、その片鱗は発揮していたんだけれど、今回は全開の感じ。
 西田敏行に「気持ちが顔に出るタイプみたいだね」と(東北弁で)言われるシーンがあるんだけれど、その、‘気持ちが顔に出る感じ’がおかしい。特に、自転車のシーンなんか、画面の片隅に笑いを仕掛ける演出もみごとなんだけど、そのとき、松田龍平がああいう顔をしているっていうのが大事なんであって、そりゃセンスっつうか技量っつうかそういうことですよ。
 やっぱりコメディって観客との駆け引きで、観客を手玉にとって押したり引いたりができるかどうかなんですよね。それは、名投手が打者の心理を読めるのとおんなじで、そういうことができるかどうかは、でも、映画監督の場合は、目の前に対戦相手がいないわけだから、時代の感覚とずれていないっていう皮膚感覚みたいなのが必要なんでしょ。そういう意味では、松尾スズキはいまいちばん脂がのりきっているそういうときなんでしょ。
 笑いの密度も濃かった。コメディと言いつつ、笑えないヤツあんじゃん?。ああいうのじゃないもん。どっかんどっかんっていう、ちょっと笑いすぎじゃないの?っていうおばちゃんもいたけど、わたしは、面白くても声に出さないタイプなんだけど、それでも今回けっこう声に出して笑った。
 笑いを作れる人は尊敬してしまうんです。これを書きながら考えていたのは、松尾スズキも出てた、松本人志の「R100」のことなんだけど、あの映画は賛否両論で、よかったという人もいたし、私は面白かったんだけど、ちいさなほころびは確かにあった。最盛期の松本人志なら、そういうほころびとは逆に、こっちの予想のさらに上を行くものを作ってたと思うのだけれど、それでも、うけるうけないは、ほんのちょっとしたずれにすぎないんじゃないかとも思う。もちろん、松本人志の場合は、松本人志という存在自体がハードルを上げているのも確かだったろうけれど。
 だから、笑いを作れる人は尊敬してしまうんです。良質のコメディを見たい方にはおすすめです。「テッド」とか「ハングオーバー」とか、そういう映画が好きなら、見逃したら悔しいと思います。