ナボコフがアメリカに渡る前、ドイツに亡命中、まだロシア語で書いていた頃の小説。
若島正が翻訳したのを読んで『ロリータ』ってこういう小説だったんだと、初めて分かった私だった。永らく日本語訳の『ロリータ』として通っていた、その前の人の翻訳は、あまりにひどいと思った丸谷才一が抗議の手紙を書くと、「実は、自分で翻訳してなくて・・・」みたいな言い訳の返事が来たらしい。要するに、ポルノだと思ってたらしく、名前だけ貸した、みたいなことなんだろう。
英語ができないものにとってはこういう悲劇は常に起こりうると思ってないといけない。『エクソシスト』の原作者が書いた『ディミター』っていう小説が面白かったので、『エクソシスト』も読んでみようと思ったが、アマゾンのレビューをみると、この翻訳もかなり酷いらしく、読む気が失せてしまった。
ナボコフは、『文学講義』にもあったように、フローベールの『ボヴァリー夫人』がかなり好きみたいで、フローベールの描写に倣ったんだろうと思えるところがあった。 ボヴァリー夫人のエマ同様、この主人公もバカだけれど、フローベールが「エマは私だ」と言ったほどには、この主人公のバカさには共感できない。
ナボコフ自身、この小説はかなり気に入っていたらしい。発表当時の評判も上々だったし、なんとか映画化できないかと画策もしたらしい。でも、この映画化は無理だと思う。どうやっても仕掛けがバレる。亡命作家としてロシア語で書き続ける限界を感じ始めることになったのではないかとも思えるが、そう思うのは『ロリータ』の作家ナボコフを知っているからなのは確かだろう。
ところで、映画『プール』の主題歌を歌っているハンバート・ハンバートっていうのは実在するらしい。ハンバート・ハンバートは、『ロリータ』の語り手なので、あの『プール』っていう映画の仕掛けのひとつなのかなと疑っていた。
横浜の109シネマズが閉館するにあたって、思い出の映画特集みたいなプログラムを組んでいたが、その中にも『プール』が選ばれていた。マニアックなファンがいる映画なんだろう。