「ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た」

knockeye2017-02-09

 「ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た」っていうドキュメンタリー映画があって、これを観たんです。
 「ノーマ、世界を変える料理」っていうドキュメンタリーもあって、そっちとごちゃごちゃになってた。そっちも観ればよかったな。
 ノーマってのは、レネ・レゼピって人がコペンハーゲンで経営しているレストランで、イギリスの「レストラン」誌の「世界のベストレストラン50」の第一位に4回も選ばれたところ。
 40テーブルくらいのレストランだそうですが、1年に100万件を超える予約の問い合わせが世界中から入り、コペンハーゲンの観光客を11%押し上げたっていう。
 まさにインバウンド効果。中国人の爆買いが終息した日本にも、世界的に有名な料理屋さんがいっぱいあるんだから、こういうの見習ったらよいよね。その意味では、いくらでかくても、オリンピックなんて1か月くらいしか持たないんだし、築地市場にテコ入れしたほうが、永続的な経済効果が見込める。オリンピックのために築地移転させるなんて、愚の骨頂かもよ。今回の映画にも登場してきたけど、築地市場の仲卸さんたちは、彼らこそ東京の食文化を支えてるわけだから。
 それは、ともかく、そのノーマの映画なんだけど、東京のホテルで期間限定のレストラン「ノーマ・アット・マンダリン・オリエンタル・東京」をオープンするっていう世界初の試みを追っている。
 東京に支店を出すって話じゃなくて、そんなコペンハーゲンのお店を休業して(!)、レネ自身がスタッフ総勢77名を引き連れて、「本店と同じメニューなら意味がない」つって、一年かけて日本各地の食材を探して新しいメニューを作った。ちなみに今回も世界中から62000件の予約が入って予定を2週間延長したそう。
 映画は厨房のスタッフを中心に撮っている。スッポンを捌く練習なんかしてる。たまたま「旅ずきんちゃん」ってテレビ番組で、小峠が京都の鍋料理を食べ歩いてたんだけど、その時、スッポン鍋の老舗もあった。そこのご主人の話だと、スッポンの捌き方は、一子相伝で門外不出のようだった。結論から言うと、レネもスッポンは断念していた。
 ただ、食材探しは、北海道から九州まで、山本益博とかをコーディネーターにして旅して回っていた。厨房の苦労はもちろんだけど、ほんとはそっちの旅にもっと重点を置いてくれたら、面白いロードムービーになったと思う。予算の都合があっただろうけれど。
 信州の山道で、蟻の試食をしたり、木の枝の味見をしたり。サルナシの実にいたく感動していた。「ミニキウイ」と言ってた。そのサルナシをペーストにしてウニと合わせてタルトにしたみたい。
 メニューが出来上がって開店するところで映画は終わるけれど、実際に食べた人のブログを後から見ると面白いので、映画でも、実際に日本限定メニューを食べた人たちのさまざまな反応、それに対するレネやスタッフのリアクションまでフォローしていたらもっと広がりのある映画になっただろうなと思う。
 というのは、けっこう「まずい」って反応もあるから。ただ、まずいから不満だったかというと、そうじゃないのが美食家という人たちの面白いところ。「こんなまずいの食べたことない」とか言いつつ喜んでいる。
 不評なメニューは、デザートの発酵させたセップ茸をチョココーティングしたもの。これはまずいらしい。
 しかし、さっきのサルナシのペーストにウニをのせた、羅臼昆布の生地のタルトはうまいらしい。
 また、カボチャをかつおだしで煮たものに、羅臼昆布の細切りと桜の塩漬けをそえて、バターソースと桜の木のオイルをかけたものとか、八朔、文旦、タンカン、ミカンに昆布だしとオイルと島コショウと山椒のドレッシングをかけたサラダとか、むかご、くわい、ゆりね、ちょろぎ、レンコン、ゴボウを味噌漬けの卵黄につけて、など、ノーマのスタッフが、日本の食材に果敢に挑戦しているのがわかる。
 うまい、まずいってことを言うと、毎日食べている白飯とみそ汁が旨いに決まっている。しかし、安くはないお金を費やして世界中からコペンハーゲンに出向いて食べようという料理はそれじゃないわけです。
 たしかに、こうして論じてくると、アートに関する議論に似てくる。というより、実は、こちらこそアートかもしれない。なぜなら、前衛芸術がほぼ無視されている一方で、レネ・レゼピの料理は圧倒的に支持されている。
 千利休が日本美術のアイコンであることは今ではだれにも異論がないだろうが、しかし、彼は茶を供していただけだった。
 だから、この映画としてはやはり実際に食べる人たちも取材すべきだったろう。世界中から、ノーマで食事するために集まってくる人たちがいるからこそ料理が成立するのだし。