「三度目の殺人」

knockeye2017-09-09

 是枝裕和監督が、役所広司を迎えて撮った新作は、国境を越えて待ち望んでいるファンがいるってことを納得させられる、充実した出来映え。美術監督種田陽平が務めた画面は重厚に作り込まれていて、彩度とか、コントラスト、色温度とかまで、間違いなくこだわりぬいた色彩設計が、印象的なシーンを作り出している。
 前作の「海よりもまだ深く」が、キャストも内容も、タイトルの付け方からも「歩いても歩いても」の後を受けた私小説的(何しろ主人公の小説家が「島尾敏雄賞」なる賞の受賞者)な作品だったが、この映画は、法廷劇というシチュエーションからも、グッと娯楽性の高い作品に仕上がっている。娯楽性といっても、「海街diary」とか「空気人形」とか、そういうことで、「バットマン」とか「トランスフォーマー」とかの事ではないけど。
 キャストは、「そして父になる」の福山雅治、「海街diary」の広瀬すず、「奇跡」の橋爪功、「海よりもまだ深く」の松岡依都美、という具合に、是枝作品に旧知の顔ぶれと、先述の役所広司に加えて、吉田鋼太郎斉藤由貴満島真之介市川実日子が新たに加わっている。
 オリジナル脚本で、原案も是枝裕和自身。セリフに「訴訟経済」なんて耳慣れない言葉が出てきて、みっちり下調べしたんだろうなと。「海街diary」の時も、姉妹で共同生活している家庭をリサーチしたって言ってたから。
 福山雅治の演じる弁護士・重盛朋章が、殺人で起訴されている前科のある男・三隅高司(役所広司)の弁護の応援を依頼される。三隅が以前に犯した殺人事件の裁判長が、重盛の父親・彰久(橋爪功)という縁を頼ってのことだった。
 三隅が殺したとされる男の娘が広瀬すず。重盛朋章は、離婚協議中で、別居する妻のもとには同じ年頃の娘がいる。三隅にも服役中に縁が遠くなった娘がいる。こんな具合に、いく通りもの親子関係が、画面の表面に浮かび上がってはまた消えてゆく。その辺のリズムが、ルドヴィコ・エイナウディの音楽、種田陽平の色彩と奏でる旋律が素晴らしい。虚実の間で揺さぶられる感覚が心地よい。斉藤由貴広瀬すずの母娘が怖い。
 是枝裕和のインタビューによれば、「接見室のシーンは、撮っている間に、『ああ、すごいものが撮れている』という風にセットにいた皆が感じていて、ちょっとざわざわしていた」そうだ。インタビュー記事をいろいろ検索して読んでご覧になるとよい。以下のインタビューも面白い。何と、福山雅治の最終弁論シーンも撮り終えていたらしいが、最終的にすべて切ってしまったのだとか。
 同じ日にクリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」も観たけど、「三度目の殺人」の方が断然オススメ。
是枝裕和が思う「日本で一番うまい役者」役所広司と福山雅治の真剣勝負『三度目の殺人』【ロングインタビュー】