「ノクターナル・アニマルズ」

knockeye2017-11-04

 「ノクターナル・アニマルズ」が週刊文春のシネマチャートで取り上げられていたが、評価が分かれている。わたしの勝手な判断では、あの5人がそろって「まあいいんじゃない?」みたいな映画よりも、評価が分かれているものの方が面白いと思っている。
 主演のエイミー・アダムスを私が最初に認識したのは、ディズニー映画「魔法にかけられて」で、アニメの世界から抜け出してしまったお姫様なんていう難役をさらっと演じてしまった、見事なコメディエンヌぶりは、「ジュリー&ジュリア」でも発揮されていて、いかにもノーラ・エフロン監督好みの、メグ・ライアンとかニコール・キッドマンとかにつながる女優さんなんだと思ったわけだった。コメディエンヌとして優秀な人は後は何でもできるので「ダウト」「ザ・マスター」「アメリカン・ハッスル」「メッセージ」と今アメリカでいちばん信頼されている女優さんだと思う。
 監督のトム・フォードは、ファッションデザイナーでもある。冒頭のインスタレーションなどはそのまま作品としても成立する。エイミー・アダムスが演じるのは、わたしは美術館の主任キュレーターかと思ったんだけど、画廊のオーナーであるらしく、成功者と言われる人のひとりだろう。旦那の仕事は破産しかかっている、のに、商談と称してどこかの女としけこんでいるが、娘は手を離れて一人暮らしを始めているし、幸か不幸か、それが重大な関心事とはならない。ただ、映画のタイトルにもなっているように、眠れない夜を過ごしている。
 そんな彼女のもとに、二十年前に別れた元の夫(ジェイク・ギレンホール)から、出版予定の彼の小説が届く。もともと彼は小説家志望だったが永く日の目を見ていなかった。
 ジェイク・ギレンホールは、元夫とその小説の中の主人公を演じる。映画は、回想シーンと現在を小説内小説(原作はオーステン・ライトの『ミステリ原稿』。邦訳もあるそう)というか映画内映画がつなぐ。
 wikiによると、トム・フォードホアキン・フェニックスにも出演をオファーしていたらしい。だとしたら、エイミー・アダムスとは「ザ・マスター」「her/世界でひとつの彼女」以来の共演になるはずだったが、詳しいことはわからないけれど、観た印象から判断すると、映画内映画にでてくる警官の役だったんではないかと思った。実際にはマイク・シャノンが演じているが、この役はエイミー・アダムスと共演歴がない方がよかったと思った。そもそもが勝手な想像なので余計なお世話なんだけど、映画内映画のこの役とアーロン・テイラー=ジョンソンが良い。
 週刊文春で評が分かれるのはよくわかる。突き放してみちゃうとせこい話ではある。でも、最後に残るちいさな苦みが拭い去りがたいシミのように残るとしたら、やっぱりそれはいい映画なんじゃないかと思う。
 エイミー・アダムスのラストの表情はこの女優さんの存在の大きさを感じさせる。もうそろそろアカデミー賞を獲ってもいいなと思うが。