「麦秋」

 TOHOシネマズの午前十時の映画祭で、小津安二郎監督の『麦秋』。
 あらためていうまでもなく、映画史に残る名作。
 「今が一番いい時かもしれないよ」という父親の台詞が、ずしんとくる。
 鎌倉が舞台で、『海街ダイアリー』を連想させる。綾瀬はるか原節子と比較されたりしていたのが、なるほどと納得される。
 鎌倉の家で使っている電話は、まだ黒電話ですらなく、

こんなやつ。これでどうやって電話するのか、詳しく知らないが、交換台を呼び出して、それからつないでもらうらしい。
 そういう時代、具体的に言うと1951年なんだが、そこがホントで、今がウソのような気がする。
 wikiに概略があるので、そちらを読んでもらえればよいが、映画の中では台詞ですこしふれられるだけの「省二」という次男の存在がポイントになっている。
 その不在を中心に映画が回っている。見事としか言いようがない。中心が不在なので、何気ない日常を描いているようで、求心力が強いんだと思う。その日常の奥にあるものに心惹かれてしまう。
 踏切のシーン、『麦秋』の踏切のシーンっていうと、有名だっていうことになるのかどうかしらないけど、海外で上映された時には、そこでどよめきが起こったとも聞いたことがある。それはやっぱり、そこにいたるまでにぐいぐい引き込まれているからで、そこで遮断機が下りて、電車が通り過ぎて、ふっと、いったん息をつくんだと思う。
 wikiによると、脚本の野田高梧は「『東京物語』は誰にでも書けるが、これはちょっと書けないと思う」とも発言していたそうだ。