日大フェニックスと抑圧の移譲

 日大アメリカンフットボール部の監督とコーチが、対戦相手の選手にケガを負わせる目的で、配下の選手に反則を強要した事件について、いろんな人がいろんなことを言っている中に、北野武TVタックルで、

 「昔は就職に一番良かったのは応援団だったんだよね。縦社会のなかのひとつのパーツとしての能力はすごく優秀だといわれたんだよ。今の時代はそんな時代じゃないのに、まだ企業としてはそういうのを採りたがる。」

と言ったそうだ。
 北野武の母校、明治大学ラグビーの名門校だが、ラグビー部には5軍までもあるそうで、そこにいる選手は「明大ラグビー部出身」という「肩書」目当てであって、ロクに走れもしないようなやつばかりなのだそうだ。それでも、その肩書きが就職に有利だというのが、彼らにとっての現実なのだろう。
 「実際に今でもそのような考えで運動部出身者を採用する企業があるの」と、誰か共演者が尋ねたそうだが、最近、日本の企業が世界を騒がした事件を見れば、ワザワザ訊くまでもない。
 オリンパス東芝の経営者たちが、粉飾決算という「反則行為」に至る論理は、今回の日大の監督、コーチ、選手と共通しているし、そして何より、森友問題をめぐる財務省の官僚たちが取った行為、組織防衛のためには、国会を欺いてはばからない倫理性の欠如は、今回の日大アメリカンフットボール部の事件と同じく、縦社会の論理が日本の中枢まで支配していることをはっきりと示している。
 いわゆる「体育会系」の縦社会の論理と、公共意識や倫理を混同する、この手の反知性は、明治政府の中央集権化の完成とともに、日本人に根付いていったと思っているが、これは、ユニークすぎる考え方とは言われないはずである。つまり、「体育会系の縦社会」という社会観自体が、国粋主義と密接に結びつき連動している。

・・・タテの究極の価値につながりたいという衝動だけが価値となっているから、そこに向かって組織や人間が競い合いながら、牽制している。したがって独裁的権力を行使しているという意識は生まれにくく、大きな事件を起こしても、自分こそが責任があるという意識が生まれない。法律は存在しても、統治者も国民も服すべき共通の原則というより、位階秩序を保つための手段に過ぎない。上級者ほど法を無視して平気である。
個人の倫理が内面化されないから、つねに上級者の顔色をうかがって行動する。自分の行為を正当化するため上の権力の正当化を常に求める。上から正当化されれば、それは自分の責任ではない。
ところが、常に上からの圧力を感じているから、精神の均衡を保つために、上からの圧力を下の者へ威張り散らすことで発散しようとする。いちばん被害を被るのは、声の小さい下位の者にならざるをえない。

 丸山真男の「抑圧移譲の原理」。
 丸山真男がこういう背景には、東京裁判での被告たち(戦時下の官僚たちだが)の発言を分析した経験がある。

「法規上の権限はありません」「法規上困難でした」という発言のなかに、職務権限に従って行動する「専門官僚」になりすませる官僚精神の存在が指摘されます。

これは、桜井哲夫が、丸山真男が「無責任の体系」で用いている「権限への逃避」を説明した文章で、引用されているのは東京裁判の被告がした発言であり、佐川宣寿の国会答弁ではない。それは、「刑事訴追の恐れがありますので、お答えは差し控えさせていただきます」 である。
 今は靖国に祀られているA級戦犯たちと、今の財務省の官僚の倫理観はなんら変わらないということである。そして、日本の大企業の経営者たちもそこにタテに繋がっていて、さらには、日大とか明大とかで体育会系に所属する連中はまた、そこに繋がろうとして、反則しろと言われれば、ハイハイと従うわけである。
 そして、そういう人材が、日本企業のまさに意中の人材なわけだから、そんな企業がロクなことになるわけがない。
 河合薫東洋経済オンラインに書いていた「無責任なヤツほど出世する残念な職場の正体」という記事によると、1984年に、経営学者の清水龍瑩(しみず・りゅうえい)氏が、「わが国大企業の中間管理者とその昇進」のなかで「出世を決める要因」を、日本の大企業の社員をサンプルに調査した結果、東芝だけ、「昇進に責任感がマイナスに作用する」という結果が出たのだそうだ。全体としても責任感と几帳面さは、出世にマイナスとの結果が得られたのだが、東芝は、単独でも 「責任感がマイナス」の結果をはじき出した。で、この人たちが原発を作ってた。悪夢。
 こういう社会をどう変えていくべきかは、難しい問題だと思う。55年体制以来、細川政権民主党政権と、国民は2度までも、政権交代に望みを託したわけだが、結局、自民党政権の方がマシという教訓を残しただけに終わった。
 今の森友問題に対する野党の対応を見ていても、とにかく、安倍政権打倒が目的化していて、財務省をどう改革していくのか、とか、問題再発防止に何をすべきかとかの提言は全く聞かれない。
 打倒安倍政権は、いつか見た光景であり、その結果ももう私たちは知っている。野党が安倍政権打倒だけで、具体的な提言を出せないなら、それは、前の時といっしょだってわからない国民は、野党を応援するだろうが、今のままでは何回やっても同じことだ。
 「昭恵夫人が関与してたら辞めるって言ったじゃないの?」ってのが、野党の主張のすべてであり、理念も政策もない。マイナスの実績以外に実績もないので、麻生政権を倒した時みたいにまた敵失で勝とうとしている、そいう態度に、心ある人たちが失望していると気がつかないものだろうか?。