『名前』

 津田寛治は、映画を観ていてこの人が出てたら得した気がする役者さん。『名前』は、その人が主演なんで、何はともあれ観ておけばいいの。
 あと、『恋人たち』の池田良も出ていて、これも得した気がした。ただ、悪いとこから先に書くのもどうかと思うが、池田良内田理央のパートは、うまくつかめなかった。
 というのは、主人公がいろんな偽名で生活しているのは、とっちらかった人生をそのまま放置しているからだと思うのだけれど、そういう人が、流れていった先の街で、敢えて「呑み仲間」だけの関係を求めるかな?。実際、ボーリング場でうっかり出くわすほどせまいコミュニティなんだし、もし、東京ほどの大都会で、羽振りが良かった頃の呑み仲間とそのままつながってるならわかるけど、それだと、この街で呑んでるのがおかしいし、偽名なのもおかしい。だから、そこだけは気になった。
 それから、偽名で働くのはけっこう大変だと思う。そんなの、現実に考えるのはバカげてるかもだけど、たとえば、税金はどうなる?。だから、偽名で人を雇ってる立場の雇用主は、事実上、偽名と知りつつ見て見ぬ振りをしてるはずで、それがバレそうになって困るのも、おかしいと思った。
 だから、ぶっちゃけ、前半の説明的なところはけっこうキツかった。大丈夫かなという感じだったけど、そこは、まあ受け流しといて、つまり、とっちらかった人生を放置したまま生きてる主人公のところに、謎の少女が闖入してくるってことねと飲みこんじゃえば、後半の骨格はけっこうしっかりしてて、テンポも良くなった。
 金魚のエピソードとか、忘れていったスマホのとことかはけっこう怖かったので、あの辺が見どころだと思う。前半が、そこを生かすようになってたかどうかは微妙かも。
 同じ低予算映画(にしても規模は違うと思うが)の『女と男の観覧車』と比べると、ウディ・アレンの方が、やっぱりシナリオが練れてる。
 ところで『女と男の観覧車』は、そんなに評判がよくないそうだ。ケイト・ウィンスレットの演技の評価は高いそうだけど。
 でも、あの映画は、そこがよけりゃそれでいいと思う。ケイト・ウィンスレットのお芝居すごかったねっていう。
 道尾秀介原案だそうで、ノーギャラで(焼酎一本もらったそうだが)、多分、梗概だけ書いてる。書き手のコミットの仕方が強くないので、シナリオは弱くなってると思う。
 対して、インタビューで、津田寛治も語っていたが、撮影監督の根岸憲一のコミットの仕方はしっかりしていて、絵作りはさすがだと思った。『淵に立つ』の撮影監督だそうだ。
 そういうわけで、いいところと弱いところがけっこうはっきりしてるのだけれど、私はこういう手作り感は、昔から好きです。
 それから、グラビアで出ていた頃から気に入っていた木嶋のりこが『素敵なダイナマイトスキャンダル』に続いてここにも出ていて、女優さんとして存在感を発揮しているのも嬉しい。
 それから、池田良は、『菊とギロチン』にも出てるそうだ。今のところ、観に行く予定。