『ファントム・スレッド』

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 ダニエル・デイ・ルイスの引退作。
 ダニエル・デイ・ルイスが辞めると言い出したのはこれが初めてじゃないそうで、Wikipediaによると、1998年には「靴職人になる」と、貴乃花の息子みたいなことを言い出して、実際にイタリアで靴職人の修行をしていた。マーティン・スコセッシが出演依頼に赴かなければ、今でもそのまま続けていたのかもしれない。今後はそっち方面の仕事をするらしい。
 米アカデミー主演男優賞を3度受賞しているが、中でも『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』は素晴らしかった。監督は今回と同じポール・トーマス・アンダーソンだった。なので、引退作にこのコンビの作品を選ぶのは妥当な判断だと思う。
 この作品でダニエル・デイ・ルイスが演じる主人公も『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の主人公に似てなくもない。20世紀初頭のアメリカの山師と1950年代のオートクチュールの仕立屋と環境はずいぶん違うが、性格の頑なさはよく似ている。
 頑なであることは、仕事の上で妥協がないことでもあるので、顧客からも従業員からも尊敬されているが、プライベートでは困難な面もある。その辺の描写が、ポール・トーマス・アンダーソンという人はとてもうまいのだろうとおもう。朝食のシーンは笑っちゃう。
 こんな完璧主義なひとのカノジョは、そりゃ続かないので、女性関係に関して、傍目から見れば、ちょっとひどいんじゃないかって別れ方を繰り返しているようだが、そういう完璧主義が、最初は魅力的に映るもので、別れてもすぐまた別のカノジョができる。
 ヴィッキー・クリープスの演じるアルマもそんな女性のひとりだったはずだが、この子が、今で言うメンヘラ、古い言葉で言えば、ファム・ファタルとなって、主人公の人生を狂わせていく。
 こう書くとありきたりなようだし、現にありきたりかもしれないけど、ラストは予想を覆される。クリエーターの創造性が内側から崩壊していくような、不思議なラスト。
 ポール・トーマス・アンダーソン監督は、ヒッチコックの『レベッカ』の雰囲気を参考にしたそうだ。