巨匠たちのクレパス画展

 東郷青児記念美術館で「巨匠たちのクレパス画展」。
 クレヨンとクレパスがどう違うのかさえ、知らなかったし、そもそも違うことすら知らなかったが、クレパスってのは、クレヨンとパステルの良いところを併せ持つ、大阪の商人が開発した画材なのだそうだ。
 矢崎千代二の要請に応えて、間磯之助の王冠化学工業所が、初の国産パステルを開発したことは、以前書いたが、パステルは油絵と同じように色を混ぜることができる上に、油絵よりはるかにラフに使える利点はあるものの、画面を定着させるひと手間がかかるため、ラフに描けても、持ち運びに細心の注意を要す不便があった。
 それを改善したクレパスは、画家たちにもっと受け入れられてもよさそうなものだが、今のところそうなっていないようだ。
 パステルといえば、ルドンやドガの絵を思い浮かべるが、クレパスにはそういう存在はいない。今回の展覧会に出品されている巨匠たちのクレパス画を観ていて思ったのは、たぶん、画材として便利すぎる。
 
 油絵とほぼ同じ表現も可能だが、油絵のように大画面には向かない。となると、パステルや水彩よりできあがりの感じが油絵に近いことが、敢えてクレパスでという挑戦から画家を遠ざけるのだろうと思う。
 現に個々の作品を観ても、クレパス画ならではの表現といえるほどのものはなかったと思う。むしろ、クレパス画でも、熊谷守一熊谷守一だし、小磯良平小磯良平だなあという感想。その中で、山下清だけは「らしくない」のがおかしかった。
 ただ、1925年に誕生したばかりの若い画材なので、今後、クレパスに魅了された、クレパスマスターみたいな画家が現れるのかもしれない。
 矢崎千代二の展覧会を観ていて感じたのは、彼自身が開発に加わった、王冠化学工業所のゴンドラパステル、

矢崎千代二は、この配列が頭に入っていて、暗闇でも絵が描けたという。矢崎千代二の画業は、この画材と切り離せない。クレパスもそんな画家に出会うかもしれない。