『響 -HIBIKI-』

 『響 -HIBIKI-』は、後ろにローマ字をつけないと「え?、なんて読むの」って感じになるし、下手するとそもそも読みさえせずにスルーされるって事でこういうタイトルになったんだろうと思うが、平手友梨奈っていう、欅坂46のメンバーが主役だったりして、その辺で粗製乱造されてる壁ドン映画と混同されて、そういうあたりを回避している映画ファンが見逃していたら残念だと思う。
 平手友梨奈が演じている鮎喰響って高校生が天才作家なんだ。そこはもうファンタジーでいいんだ。たとえば、天才的大ドロボーとか、天才的ガンマンとか、天才的スパイとか、そういうのが存在しますよってとこから、映画が始まるので、あとは、その造形がどれだけ魅力的かってことにかかってくるわけだけど、平手友梨奈の響には、なかなかドキドキさせられる。
 西部劇にたとえて言えば、登場するやいなや、観客の期待よりはるか先に、酒場で格闘が始まり、見事なガン捌きを見せつけられるってことが大事なわけ。映画なんてたった2時間しかないんだから、ラストのオチのために伏線張ったんだなぁとか、辻褄合わせようとしてるなぁとか、そういうの要らないから、『オーシャンズ8』の中の人、そういうことだから。
 響のスーパーさは、文系のワンダーウーマンって感じ。ホントはありえないんだけど、それは、でも、寅さんだって同じなのよ。フーテンの寅さんだって、あんな人ホントはいるわけないんだけど、こういうことを言うと、「でも、もしかしたらいるかも」って反発が湧いてくるでしょ?。それがファンタジーの力なんです。
 響みたいな天才少女がいるかもって思わせる、そのひとつの背景は、これもまた寅さんの、おいちゃん、おばちゃん、タコ社長、さくら、ひろし、などなど、まわりの登場人物がこころにくいほどリアルなのと同じで、以下、役者の名前で書くけど、北川景子黒田大輔の編集者コンビがいいでしょ、柳楽優弥の新人作家がいいでしょ、北村有起哉芥川賞作家がいいでしょ、不良文芸部員の笠松将がいいでしょ、売れない作家の小栗旬がいいでしょ。言ってったらキリがないんだけど、この人たちのディテールがすごく作り込んであって泣ける。内田慈がちょっと出るんだ、なんかこう山田詠美的な、内田春菊的な、そこまで売れてないかもしれない作家の役なんだけど、そこも丁寧に作り込んでて侮れないって気持ちになった。
 唯一、人物造形としてどうかなと思ったのは、響を付け狙うパパラッチ役の野間口徹は類型的かなと思ったけど、彼は響の、いわば仇役なので、響と同じく彼もファンタジーなんで、この人はリアルに描くわけにいかなかったのは、むしろ当然。だから、彼は逆に、もっとありえなくてよかったかなと思う。でも、そういう彼でさえ、トラックの運転手と絡むあたりのコミカルさは秀逸だったりする。
 売れっ子作家の吉田栄作、編集長の高嶋政伸は手馴れたもんだし、けっこうな数の登場人物を印象的で無駄のないカットでつないでいく月川翔って監督は大したもんだと思った。
 それに、アヤカ・ウイルソンが演じている響の高校の文芸部の一年先輩で、しかも、売れっ子作家の吉田栄作の娘って役どころが、響の作家としての生活と高校生としての生活をうまく繋ぐ存在になっている。もちろん、原作がうまいんだろうけど、原作がいいからいい映画になるとは限らないわけで、ここはやっぱり監督が見事だって言っていいんだと思う。
 ガル・ガドットの『ワンダーウーマン』が、第一次世界大戦を舞台にして大成功したじゃないですか?。あの感じに似てる。
 ちょっと曲がり角に来てるのかな、停滞気味なのかなっていう文壇に、突然ワンダーウーマンが降臨したらって、そういう痛快感が勝因なんだと思う。響はワンダーウーマンだし、任侠映画健さんだしってことだと思う。
 それから、『愛しのアイリーン』で愛子さんを演じてた河井青葉さんが豊増幸役で出てました。一瞬だけど、こういうあたりもキャスティングにスキがないなぁ。
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