イケムラレイコ 土と星

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 国立新美術館イケムラレイコ展を観た。これは、突然、春みたいに暖かくなった日。そんな風に官能が開いている時にふと観たくなる、根源的な部分に触れてくる絵だと思う。
 この人は、日本よりも海外での方が、よく知られているそうで、それが嘘でなさそうなのは、会場を訪れている人の西欧人率が明らかに高い。正確に言えば、日本人が少ない。ゆったり観られてよかったけれど。
 イケムラレイコ初心者の私としては、まず、木炭のドローイングが素晴らしいと思った。今、上田市で展覧会がやってる村上早の銅版画を思い出したが、木炭というせいもあるのか、こちらの方がさらにプリミティブに感じた。
 それから、くりかえし現れる少女のモチーフに独特の魅力がある。刷毛で一筆書きされたような少女も印象に残るけれども、特に、他に伏せる少女というモチーフは発明かもしれない。一般に婦人像は、立ったり座ったりはもちろん、寝姿であっても、大抵は横臥しているものだが、イケムラレイコの少女は完全に他に伏している。なんなら、顔も地に埋もれている。どこかチベット仏教徒の五体投地を思い出させる。
 立体の作品もあった。この《うさぎ観音》の顔は、天上的なイメージの対極にあると思う。

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イケムラレイコ《うさぎ観音》

 こんな大規模な回顧展はたぶん日本ではめったにないのだろうと思うので見逃さなくてよかった。
 国立新美術館は、美術館を名乗っているが、所蔵品を持たない。英語表記ではArt Centerでmuseumではない。過去にはゴッホ展とかピカソ展とかやったこともあったが、人集めとしてはあまりにも安易なんじゃないかと。イケムラレイコのように、海外では有名なのに、日本では知られていない画家の回顧展は、あらまほしき企画と思う。
 それから、この展覧会はこの後、スイスのバーゼル美術館に巡回するそうなので、飛行機代の節約のためにも、今観ておきませう。