『女王陛下のお気に入り』

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 『女王陛下のお気に入り』は、『ファースト・マン』と同じ日に観た。
 これは何といってもオリヴィア・コールマンのアン女王が圧倒的。情けなく、愚かでありながら、威厳に満ちている。なにしろ、女王が侍女にクンニされているシーンを描きつつも、結局のところ、威厳を失わない。
 しかし、それは当然なのである。日本の天皇にしたところで、たとえば、『源氏物語』なんかエロいとこ、ヤバいとこ、いっぱいなんだが、それで威厳が失われたりしないので、威厳とはそういうものなのだ。威厳に理由も根拠もない。ただ、威厳があればよいのであってそれだけのこと。
 昭和の一時期、軍部が天皇制を利用しようとして、「現人神」とか、そういう、どこから引っ張り出したか知らない、いずれにせよ、国民に浸透しなかった、そういう「威厳についての根拠」のようなものは、すぐにウソがばれる。現に、長めに見積もっても40年ももたなかった。
 威厳や権威に理由も根拠もないからこそ、女王が侍女にクンニされる場面を大画面で描いても、それで威厳が失われたりしないのである。むしろ逆に、天皇を「現人神」とか言って「御真影」とかを強要することで威厳が失われるのだ。そういう強要をしている誰かが天皇の頭を押さえているのが明らかなのでね。
 いま、日本会議とか極右の連中にとっては、天皇陛下靖国参拝が悲願だそうだが、そういうことをすればするほど、天皇の権威には傷がつく。戦前の日蓮主義者が天皇日蓮宗に改宗させようとしていたことと全く同じなのだ。バカはおんなじバカを繰り返すからバカといわれるのだ。王家の威厳というものの構造的理解ができていない。
 話がずれちゃったが、英国の王室は、実在の女王がクンニされるシーンを映画にしても平気な顔をしている。だから、威厳が保たれる。実際、オリヴィア・コールマンのアン女王の威厳にはうたれる。レイチェル・ワイズの女丈夫も、エマ・ストーンの奸臣も見事なんだけど、ヤッパリこの映画の主役はオリヴィア・コールマンなのである。エマ・ストーンレイチェル・ワイズという脂の乗りきっている二人の女優をしたがえて、女王として君臨しているのだから、これはもう見事としかいいようがない。

 *追記

 これを書いた翌日に、オリヴィア・コールマンのアカデミー主演女優賞受賞の報があった。受賞スピーチの用意がなかったとか。渋い選択だったな。でも、ノミネートの面々を眺めてみると、意外に最有力だったかも。個人的には納得です。