『夕陽のあと』

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夕陽のあと

 貫地谷しほりは『ちりとてちん』の頃からコメディエンヌとして評価していて、この人が出てると観に行きたくなる。今回は、笑いの要素はなかったが、山田真歩とのコントラストが効いていて、この二人の女優の存在感で見せる映画だった。
 監督は、越川道夫。『海辺の生と死』という、満島ひかり島尾敏雄の奥さんの島尾ミホ役で主演した映画を撮った人で、あの映画は、満島ひかり自身が語っていたと思うが、島そのものが主役みたいなところがあったので、今回の、鹿児島県にある長島という島を舞台にした映画の監督として適役だったと思う。
 長島はブリの養殖で潤っているのだと思う。それでこんな映画を作れる状況になっているのは、地方創生のモデルとしても面白い。
 そういう地方から東京を見ると、ふつう、地方vs.東京の構図というと疲弊した地方と東京の格差になりがちだが、長島はそういうわけで疲弊していないので、コミュニティー崩壊の対比として、人とのつながりがある場所とない場所の対比の構図が鮮明になる。
 ある意味では、古典的な母子ものといえるストーリーだが、昔なら「血は水よりも濃い」みたいな結末になるところを、今は「コミュニティーのないところで子育てなんてできない」といった結論になるし、そういう結論にならないとリアリティーがないことに時代を感じずにおられなかった。
 気がつけば、東京に夢がなくなっている。夢のない都会に存在意義があるんだろうか。そして、長島のような例と違って、人口流出でコミュニティーを失っていく地方が日本の現状かも知れなくて、この、ある意味では古典的な母子ものが、おとぎ話めいて見えてしまうのもしかたないのかもしれない。
 それから、先日、急逝した木内みどりさんも出演している。遺作ということになるかもしれない。