映画

『PERFECT DAYS』

ヴィム・ヴェンダースの日本好きというか、小津安二郎に対する敬愛は、『東京画』などで知っているけれども、『東京画』は『東京画』と言いつつ、記憶に残っているのは笠智衆との対話って感じで、エッセイ漫画ならぬエッセイ映画って感じ。ヴィム・ヴェンダ…

『蟻の王』ネタバレ

食傷気味というよりもう完全に飽き飽きしているLGBT映画なので、珍しくイタリア映画で、ブライバンティ事件という実話を描いているってことでなければ観にいかなかった。それに「蟻の王」ってタイトルが当然ながら『蝿の王』を思い出させてちょっと魅力的だ…

『正欲』『市子』『隣人X -疑惑の彼女-』まとめてネタバレ

この3作品を並べて評するに意味があるかどうかようわからん。 でもまあ、立て続けに観ちゃったから、何となく共鳴する。3作品とも孤独な女性のストーリーとして観ちゃった。だから、『隣人X -疑惑の彼女-』も、上野樹里が演じる柏木良子の物語として観ちゃ…

『ぼくは君たちを憎まないことにした』

最近観た映画で泣けるって意味ではこの映画が一番だろう。 ただ、残念ながら他に言うことがない。 ある日街を歩いている主人公に女の子が近づいてきて 「代弁してくれてありがとう」という。 フランスが、あのテロの直後、イスラモフォビアからなる憎しみの…

『ゴジラ-1.0』ネタバレ

封切からほとんど一ヶ月たって今更『ゴジラ -1.0』を観た。 近年、映画の公開数が多すぎる。で、観たいと思っている映画を見逃す。先月はひと月で12本観てる。平均して1週間に3本観ている。それに加えて、Netflixで『ザ・キラー』と『ミュンヘン』を観たのだ…

『花腐し』

『花腐し』は、松浦寿輝の芥川賞受賞作の映画化でもあるけれど、と言いつつやはり、荒井晴彦のシナリオという惹きが強いか。 というのは、『赫い髪の女』は、中上健次の短編が原作なんだけど、原作とはほぼ違うものだった記憶。 モチーフもピンク映画の終末…

『熊は、いない』『君は行く先を知らない』

イランには優れた映画監督が多い。その中で、ジャファール・パナヒ監督は、特殊というか不思議というか、イランの外から見ると謎な状態に置かれてきた。2010年に「イラン国家の安全を脅かした罪(?)」を犯したってことで、20年間の映画制作・出国・あらゆ…

『サタデー・フィクション』 ネタバレ注意!

『サタデー・フィクション』のこの「サタデー」は1941年12月6日の土曜日だ。日本で公開するかぎりは、この辺にもっとフォーカスした方が良かったのではないか。 しかも、原作は、横光利一の『上海』上海 (講談社文芸文庫)作者:横光利一講談社Amazonと、虹影…

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』ネタバレ

確かに、観ている最中は時間をわすれて惹きこまれるけれど、3h40minという上映時間はやっぱりひるませる。三連休でなければとても観に行かなかったかもしれない。 しかしながら,退屈な映画で眠気と戦う2時間と同じ値段で、スコセッシとデカプリオの長編叙事…

『パトリシア・ハイスミスに恋して』

パトリシア・ハイスミス、マルグリット・ユルスナール、トーベ・ヤンソンはレズビアン。 マルグリット・ユルスナールは、一般にそんなに有名でもないかもしれないが、トーベ・ヤンソンがレズビアンなのはずいぶん前から知っていた。 これに対してパトリシア…

『アンダーカレント』ネタバレ

今泉力哉監督が、マンガが原作の映画を撮った。是枝裕和監督の『海街diary』みたいな。 原作者の豊田徹也さんとは映画化が決まる前に会って4時間話し込んだそうだ。それまでも何度か映画化の話があったが断った経緯があるそうなので。 その時の話でなるほど…

『愛にイナズマ』ネタバレ

この三連休も映画三昧。週末はもともと映画か美術館だったが、円安、コロナの影響でよい美術展が減った一方で、こと今週に限っては観たい映画が多すぎる。そうでなくても、観たいのに観られていない映画もあり、観たけどここに書きもらす映画もありってこと…

『燃え上がる女性記者たち』『国葬の日』ネタバレ

この二つの映画を同日に観られたことは私にとっては有意義だった。 映画の内容とは直接の関係のない話を先にしておく。インドのモディ首相が推し進める、ヒンドゥー化政策に呼応して、ヒンドゥー原理主義の活動をする若者と、安倍晋三元首相の殺害現場に花を…

『コンサート・フォー・ジョージ』ネタバレ

『コンサート・フォー・ジョージ』が、突然って感じで映画館にかかり始めたので観に行った。 2002年11月29日、ジョージ・ハリソンの一周忌に、ジョージの妻オリビアと息子ダーニによって計画され、ジョージの親友、エリック・クラプトンの主催で、ロイヤル・…

『月』ネタバレ 補遺

宮沢りえが二役していたのかどうか気になる。 似ているのには気がつくけど、はっきり二役と確認できるほどではないのは、演出として実に正しいと思う。もしかしたらクレジットされてるかもしれないが、知らなくて、どうなんだろう?と考えてる方が楽しいし。…

『月』ネタバレ

この映画の題材となったやまゆり園事件の衝撃は憶えている人も多いだろうと思う。だから、それを虚構の作品として成立させることには独特の困難さを伴う。 辺見庸の原作がそうなのか、映画の脚色なのか知らないのだが、主人公がやまゆり園事件の実行犯である…

『私のプリンス・エドワード』『縁路はるばる』

『私のプリンス・エドワード』『縁路はるばる』っていう、香港の映画を観た。 なんというか「物語の終わった後」感が漂っている。そんな気がするのは先入観かもしれないけど。 カーキ・サムって人が両方に出ていてたぶんスターなんじゃないかと思う。好まれ…

『旅するローマ教皇』

ジャンフランコ・ロージ監督の『海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島〜』が、なんと言っても傑作ドキュメンタリーだった。2016年度ベルリン国際映画祭金熊賞。 先立つ『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』も2013年度ヴェネチア国際映画祭金獅子賞。ド…

『隣人は悪魔 ナチス戦犯裁判の記録』ネタバレ

フォードの工場で働いて車を作っていた退職した老人が、1986年、急にナチスの戦犯だと言われて国外退去処分になり、イスラエルで裁判にかけられることになる。 アメリカにそれ専門の機関があることに驚いた。専門性ゆえの良い面、悪い面はありうるだろうけれ…

『バーナデット ママは行方不明』

ケイト・ブランシェットが『TAR/ター』の前に撮っていた映画が、たぶん『TAR/ター』のヒットのおかげだと思う、今になって公開された。 『6才の僕が大人になるまで』のリチャード・リンクレーター監督作品なので、そうでなくても普通に日本公開されてもよさ…

『ほつれる』ネタバレ

主演の門脇麦はこの映画の主人公が好きじゃないそうだ。 そりゃそうなんで、不倫相手の男が目の前で交通事故に遭ってんのに警察に通報せずに立ち去っちゃうのだ。そりゃ好きになるわけない。 不倫だから秘密にしなきゃならないし、白昼の東京だから誰かが通…

『さらば、わが愛 覇王別姫 4K』

チェン・カイコー監督が1993年に公開した『さらば、わが愛 覇王別姫』は、中国映画の頂点であるだけでなくそれ自体が美しい麗峰だと思う。連なる山脈の果てにたどり着く最高峰ではなく、砂漠の果てに忽然と屹立する須弥山の頂なのだと思う。今の中国のことを…

『ミツバチのささやき』『アステロイド・シティ』『シャーク・ド・フランス』ネタバレ

『ミツバチのささやき』をTOHOシネマズの午前10時の映画祭で観た。町山智浩の解説付き。 町山智浩の解説がいいのは、個人的な感想を極力はさまないところ。つまり、ここが好きですとか、ここが〇〇っぽいとかじゃなく、作品の映画史的な位置とか、映画が作ら…

『福田村事件』補遺

岡田斗司夫の『福田村事件』評を聞いていたら「あの竹槍の突き方では人は殺せない」だそうです。サイコパスを自認するだけのことはあるけれど、確かに、この映画のラストの30分ほどをサム・ペキンパー風に血しぶきが飛ぶリアルな演出にするとどうなったかな…

『福田村事件』絶賛公開中

満席の映画館が久しぶりで、まずそれに感動した。満席だけでなくてチケットが買えずに帰る人もいっぱいいた。ミニシアターでこういうことってそんなに体験しない。遠方から来てる人もいたみたいで、帰りに駅までの道を聞かれた。 ドキュメンタリーで有名な森…

『ジェーンとシャルロット』

先ごろ(2023年7月16日)亡くなったジェーン・バーキンを娘のシャルロット・ゲンズブールが撮ったドキュメンタリー。原題は、「Jane par Charlotte」で、1988年の『アニエスv.によるジェーンb.(Jane B. par Agnès )』を引用していると思われる(劇中に言及…

『1.4billion』

まあ、ドキュメンタリーとしてはお話にならない。どこの誰だか知らない女性ナレーターが登場人物の心情を代弁したりはダメ。マイケル・ムーアや想田和弘があれこれ口出すのはかまわない。けど、どこの誰かわからないのがなんか言うのはダメ。それは選挙カー…

『イビルアイ』ネタバレ(孫引きだけど)

主人公の少女は、病気がちな妹にばかりかまう両親に疎外感からくる反発を覚えている。妹の病気がいよいよあやしくなり、普段は疎遠にしている祖母の田舎に、一縷の望みを託して訪ねていこうとするところから映画は始まる。 こういう始まり方をされちゃうと、…

『リボルバー・リリー』

綾瀬はるかって人は実はアクションスターでもある。『ICHI』とか『僕の彼女はサイボーグ』とか。そういうわけで、まだ動けるうちに、この分野での代表作ができればいいがなぁって思うファンも多かったに違いない。 それに『リボルバー・リリー』の舞台になっ…

『バービー』

主演のマーゴット・ロビーは製作にも関わっている。彼女は『I, Tonya』にも主演とともに製作にも加わっている。トーニャ・ハーディングは、たぶん、日本で思われてる以上にアメリカでは悪役だと思うのだ。そこにあえてフォーカスする視点に表現者としての信…