『三人噺 志ん生・馬生・志ん朝』 美濃部 美津子

三人噺―志ん生・馬生・志ん朝
という本を読んだ。口述なのだろう。対談集とかでもそうだけど、語り口調で書かれているものは、サラサラっと読めてしまう。
著者は、古今亭志ん生のご長女で、金原亭馬生古今亭志ん朝の長姉。見送った三人を、惜しむ気持ちが伝わってくる昔語りだ。

・・・でね、この話を志ん五さんが馬生にしたらしいんです。そしたら馬生が、
「他人はね、『お宅のお父さん、面白い人ですね』って言うけども、家族の身になってみろよ。おまえ、あの寅さんて知ってるだろ。映画の寅さん。俺、あの寅さんの家族の気持ちがよぉくわかんだよ。本人はそりゃ、いいよ。好き勝手なことしてんだから。けど、家族は大変なんだ。」
あたし、馬生が言うこともなんとなくわかるんです。特にあの子は同じ噺家として、あたしの知らないとこでも、お父さんの尻拭いをしてきたでしょうしね。おかしいじゃすまされないこともあったと思うの。
だけど、あたしなんかは、やっぱし楽しいお父さんだったなって思うの。
今でも、時々思い出すんですよ。瓢箪池で金魚を釣ってるときのお父さんの無邪気な顔と、「フンフンフン」って、鼻歌をね。

帯に抜粋されている鳩のエピソードの続きを引用してみた。思わず吹き出しそうになるかと思うと、次のページでは、ぐっと来てしまう。法事のおときにでも連なったつもりで、耳を傾けるとここちよい。名人の死は悼むものである。