コーンウェルをひとまずおいて、メーチニコフというロシア人の書いた『回想の明治維新』というのを読んだ。岩波文庫。「ロシア人革命家の手記」という副題が付いているので、ロシアの革命に関係した人物かと思いきや、そうではなくて、若くしてロシアを飛び出し、イタリア、スペイン、フランスと各地で革命に参画していた人らしい。私は詳しく知らないが、歴史に興味のある人のために書いておくと、イタリア解放闘争の時、ガリバルヂ老将のもとスラブ義勇軍の副官として働き、ヴォリトルノというところの戦闘で片足を失った。
日本に来るきっかけとなったのは、パリコミューン敗北でヨーロッパが反動的になっている時、ちょうどそのころ革命が成功したという日本に行ってみたくなった。行ってみたくなったからといって簡単にいけるものではないのだけれど、そのころ、ちょうどフランスに留学中だった大山巌や、岩倉使節団と親交を結び、彼らの招きで日本を訪れることになった。日本に着いた時には、ポケットに3ドルほどしかなかったという。
わたくし、実は、この手の、「外人さんの日本旅行」みたいな本もちょいちょい読む。歴史として読むのではなくて、紀行文として楽しんでいる。おかしな話かも知れないけれど、外人さんたちが見聞する日本を読んでいると、「この国に行ってみたい」という気になるのだ。日本人の私がそう思うほどだから、明治の頃の日本人気は高いのも当然で、たくさんの旅行記が書かれたらしい。とにかく、日本に行って何か書けば売れた、みたいな一時期もあったらしい。エメール・ギメという人の書いたもののなかに、そんな一節があった気がする。
そんなわけで、うっかりすると変なものをつかまされるおそれもあるわけだが、(それはそれで面白いかも知れない)このメーチニコフさんの本は面白かった。ロシアは、もともと西欧の辺縁であるし、その辺縁を亡命して各地で革命に参加する男なのだから、「進んだ西欧対遅れたアジア」みたいなありきたりな図式ではないし、また浮世絵や仏像にインスパイアされた異国情緒でもない。
しかも、この人、語学の天才で、ヨーロッパの各言語は言うに及ばず、アラビア語、トルコ語、中国語まであやつれたらしい。こうなると、ある意味、一般の日本人より日本文化に詳しいという権利はある。
正直言って、ゲバラの「モーターサイクル・ダイアリーズ」より面白かった。「人力車ダイアリーズ」