星と月は天の穴

吉行淳之介 『星と月は天の穴』を読んだ。
星と月は天の穴 (講談社文芸文庫)
一旦発表した小説を、「小説内小説」にして書き直している。ふたつの物語が、微妙に影響し合う、心理的パラレルワールド
セックスが自由な時代には、恋愛を小説にするのは、とても難しい。セックスという、誰でもやっている日常茶飯事を、あえて人目に触れぬように、隠していたからこそ、恋愛というウソが成立していた。・・・と、言い切ってしまったら、どんな反応をしますか?
いずれにせよ、セックスがタブーの状況下では、ポルノは同時に恋愛小説でもあり得たし、恋愛小説はポルノを忍び込ませておけた。
セックスを自由にやりまくれる時代は、単に、恋愛小説が難しいだけでなく、恋愛という精神的行為そのものが難しい。
この小説の結末で、深まったのは、結局、肉体の結びつきで、心は元の孤独に立ち戻ったように見える。新しい孤独に向かって、歩き始めたと言うべきか。
著者のあとがきも面白かった。アパートの部屋から見える小公園という心象風景の発見が、この書き直しを可能にしたのだそうだ。ブランコがとても印象的。小説として「うまいなぁ」と、うなるのはこのあたり。