遠赤外線オフⅢは、雨天のため中止になった。ここは、平湯に近い。午後からの空模様だと、行けそうだったが、しかし家に帰って天気予報を見ると、全国的に雨の予報。遠来の人たちのことを考えると中止するのが賢明だろう。そう予告していたのだし。もうじき富山を離れることを思えば残念だが、その引っ越しに追われている現状を考えれば、ほっともしている。いずれにしても、まだチャンスはあることだ。
出かけていたのは、テンコーさんのロシア出発を伏木港に見送るためだ。その前に保険屋さんと会う予定だったので、「だいたい二時頃に行きます」と、メールしておいた。「だいたい」と書いたのは、そのころには当然、もう船室にくつろいでいるだろうと考えていたからだ。
結局、2時半くらいに着いたのだけれど、テンコーさんがまだ着いていない。二時頃に「今、8号線をとばしています」とメールが来ていたので、私の方が先に着くのはすこしおかしい。そうこうするうちに、船から女性がひとり下りてきて「○○さんですか?」とテンコーさんの名前で呼びかけられた。テンコーさんのチケット等をあつかっている代理店の人だった。
「違います。○○さんの見送りです」
「もうそろそろ手続きが始まっているんですけど、さっきから電話しているのに通じないんです」
というので、私も不安になってしまった。
後で聞くと、彼女がかけていた電話番号は、富山市内で解約してしまっていた。
3時頃に「着きました」とメールが。見えないけど、港を間違ったんじゃないかなと、不安に思いつつゲートに歩いていくとパニアを積んだXRのそばに筋骨隆々たる美丈夫が立っていた。まったく、若さがまぶしい。
荷物は見ているので、手続きをどうぞ。なんと、バイクの通関手続きもまだ済ませていないとのことだった。わたくし、自分が相当アバウトなのでこういうのはうれしくなってしまう。それにしても、ぎりぎりだぞ。
手続きを済ませて降りてくると
「バイクの通関に、パスポートっているんでしたっけ?」
「えっ、どうだったっけなぁ・・・」みたいなことで、私もディテールに関してはだいぶ記憶が薄れている。
「行けば何とかなりますよ」確かに、日本国内ではなんとかなる。そして、ロシア国内も、入ってしまえば案外障碍は少ない。問題は国境をいかに越えるか。
最大の問題であるロシア側のバイク通関はどうするかだが、とりあえずテンコーさんは自分でトライしてみるそうだ。私は二度ともエルマという通関業者に頼んだ。そういうもんだと思っていたし、とくに、1999年の時は、通関手続きに同行したので、あちこちの事務所や窓口をうろうろするのを目の当たりにして、とても自分ではできないと観念していた。
さっき私に話しかけた女性は、ロシア語がぺらぺらで仕事柄何度もロシアに行っている。「それじゃ」と帰りかけるのを、テンコーさんと一緒になって、根ほり葉ほりいろいろと尋ねた。あつかましくも、向こうの税関で必要な台詞を書いて貰ったりしているうちに、BISのイリーナさんの話になった。知り合いだそうだ。
「最初は、ホントの人助けのつもりで、ヒマだしいいかって、50ドルでやってあげたらしいんだけど、誰かがホームページに載せたらしくてそれから『50ドルでしょ?』みたいな感じで来られるので,困ってるらしいよ」
まさか、そのHPを書いたのは、「私です」とは言えない。
とにかく、今では「50ドル程度では誰もやってくれない」そうだ。彼女自身も、一度クルマを持ち込もうと、通関手続きにトライしたことがあるが、あまりにややこしいので途中で断念した。
「私は、ロシア語ができるので却ってよくなかったのかも知れない。できない方がめんどくさがって通してくれるかも」
「エルマはどうでしょう?」
「エルマならやってくれるかも。でも、ホントにめんどくさいよ」
いずれにしてもお金次第だと思うという意見だった。
どうせ船の出航は、7時くらいなんだろうと多寡をくくって、船室に入って話そうとしていると、さっきの女性が呼びに来た。
「もう出航するから出てくれっていってるよ」
ありゃまぁ。
「えらく早いですね。積み込む中古車が減ったのかな?」
「そうじゃなくて、手続きがスムーズになったの」
まだバイクを船倉に入れていないテンコーさんとまた港に下りた。
船が岸を離れるまでいようかどうか迷ったが、主人公のテンコーさんより自分の方が、感情的になりそうな予感があった。船に乗り込んだテンコーさんに「お気をつけて。帰りますわ。」と一言かけて、港を後にした。
帰宅して、すぐにY さんにメール。ロシアでバイク通関の相場がどうなっているか、ある程度つかめたので、早く知らせるべきだと思った。というのも、ちょうど昨日、「200ドルは高いんじゃないか?50ドルから100ドルでいいんじゃないか?」とメールしたところだった。Y さんからレスを受け取って、あらためて自分のHPが、もしかしたら、誰かをミスリードしたのではないかという思いが強まった。
私の「ロシアツーリングガイド」をひらくと、「エルマは200ドルかかるが1日で受け取れる。一方、ビジネスセンターでは日数はかかるが、50ドルですむ」と書いてあった。あのガイドは「間違いだらけの」と名付けてあるが、もちろん、間違いを意図したわけではない。あの時点で自分の手に入る限りの情報を提示したつもりだった。表面の事実だけを取り上げれば確かに間違ってはいないのだが、結果として混乱を招いたとすると、内心忸怩たるものがある。早速訂正しておいた。
ついでに、トップページからリンクが切れていると発覚。これもショックだった。
状況はどんどん変わっていき、情報は移ろいゆく。今のところ、旅人が手探りで自分の旅をひねり出すしかないことに変わりはないようだ。
Yさんは、HOFAを通じて事前に交渉している。これがうまくいくと、日本語で交渉できる点で、今後有利になるのではないかと思う。
そのほかにも、通関を待つ間に船中泊することもできないそうだ。やはりどこか宿泊先を見つけなければならない。テンコーさんは、プリモーリエを考えているそうで、これに関しては、彼女も納得していた。
バイクで港を出ようとすると、すでにゲートが閉じられていてまいった。去年までは、けっこうルーズに出入りできていたのに、今は立ち入り許可証を貰わなければならなくなっている。状況は変わる。