『星の王子さまの眠る海』

窓辺のマーガレットといえば桂三枝だが、星の王子さまといえばサン=テクジュペリだ。『星の王子さま』を読んだかどうか記憶が定かでないが、『夜間飛行』は北海道ツーリングに持っていった。
第二次大戦末期、偵察飛行に飛び立ったまま消息を絶ったサン=テクジュペリの飛行機が、マルセイユの海底で発見された。正式に検証されたのは2004年だが、そもそもは1998年のある朝、漁師の網にかかった石灰の塊から、銀のブレスレットが磨き出されたのだ。サン=テクジュペリと刻まれたそのブレスレットの発見は、伝説の作家のエピローグを飾るにふさわしい発端だったと思う。
ところが、現実はそう簡単にはいかないんだなぁ。世の中っていうのは剣呑なんだ。ところで、どうも私は「剣呑」という言葉を『星の王子さま』で知ったような気がする。今年サン=テクジュベリの日本での著作権保護期間が切れるので各社から新訳がでるそうだ。「剣呑」という言葉は消えるかも知れない。
星の王子さまの眠る海
星の王子さまの眠る海』は、その発端からついにサン=テクジュペリの飛行機が発見されるまでのドキュメントだ。私けっこうこういう発見ものに目がなく『そして謎は残った―伝説の登山家マロリー発見記』も読んだ。
そして謎は残った―伝説の登山家マロリー発見記
あれは表紙の写真が衝撃的だった。ちょっとトビドウグ的卑怯さだ。
この本は週刊文春池澤夏樹の書評で知ったのだけれど、集英社文庫の『星の王子さま』の新訳は彼である。
星の王子さま (集英社文庫)
それにしても、サン=テクジュペリの子孫たちの反応は、意外というか理不尽である。利己的だといってもいい。捜索の途中で別の機体も見つかる。そのパイロットの奥さんとは対照的だ。戦没した兵士を、神格化することとその死を悼むことの差を私たちは見ることができるだろう。戦没者を神格化しては悼むことはできない。神ならば悼むことはない。