『傷口にはウォッカ』

ツルウメモドキ

最近にないことだったが、明日は休日出勤になった。
吉朝ショックで書き忘れていたが、『傷口にはウォッカ』 大道珠貴
傷口にはウォッカ
を読んだ。
第十五回Bunkamuraドゥマゴ文学賞というのを受賞した作品だ。この賞の面白いのは、選者が一人しかいなくて、しかも毎年変わるということ。つまり、全くの独断と偏見で賞が贈られる上に、贈ったら贈りっぱなしで来年はもう知らない。
今年の選者は、郷土の先輩、富岡多恵子。この「郷土の先輩」は富岡多恵子に言い及ぶたびに冠むりに付けているが、詳しく言うと、富岡多恵子の高校が桜塚のはずで、そこは私がこどもの頃住んでいた家から自転車で通える距離。私がその高校に通う可能性だってあった。元は女子校だったところで、当時は緑色に塗られた木造校舎の雰囲気がいい高校だった。
それはともかくとして、一時期は富岡多恵子の新作がでると、文庫になるのを待たずに読んでいた。『逆髪』、『波うつ土地』、『斑猫』。女性の内面について、軽々しい判断を留保するようになったのは、富岡多恵子の本のおかげだと思う。
大道珠貴の今回の本も、なるほど富岡多恵子の好みだなあと思う。特にいい女でない女が、特にいい男でない男と、特にドラマティックでない恋愛をし、特に気持ちよくもないセックスをする話だ。しかも、主人公もそれを意識していて、いつもさめているように見える。
三島由紀夫が「恋愛は美しい誤解だ」といった記憶があるが、やっぱり「いつも正解」では、恋愛にはならないのだろう。誰もが愛される権利を持っていて、自分を愛してくれる人には、愛を要求することができる。なにもその権利を保留してしまう手はないと思うのだ。選挙じゃないけれど。