僕の見た「大日本帝国」

僕の見た「大日本帝国」

僕の見た「大日本帝国」

バシシさんのブログでも紹介されていたが、西牟田さんの労作『僕の見た「大日本帝国」』を読んだ。
この本の成立事情を知っていなかったら、手に取るのがためらわれる題名かもしれない。政治的な内容ととられかねない。
この本が書かれる発端となったサハリンの旅の準備に、西牟田さんは今の「WTN−J」、当時のNorthernWalkersのBBSに盛んに書き込み、情報収集に余念がなかった。
そのサハリンの旅が2000年、それから4年の月日をかけて、西牟田さんは旧大日本帝国の跡を旅して回った。この本はその旅の記録。そして、久々に読み応えのあるよい旅行記だと思う。
この本は週刊文春の書評欄にも取り上げられていたし、帯には「第4回新潮ドキュメント大賞最終候補作」ともある。それに、なにより作品の出来栄えが、達成感を感じさせるのではないか。いずれにせよ、西牟田さんにとってひとつのモニュメントとなる作品だろう。
靖国」「竹島」「チベット」、テレビで議論を戦わせている人たちが、現地の思いを知っているとはとても思えない。かつて植民地支配されていた地域の人たちは、日本に対してどう思っているのか?知りたければ、旅に出るしかない。この本を読むと、まず、西牟田さんという旅人のパーソナリティーが伝わってくる。読者はたちまち旅人の視点にたつことができる。
面白かったのは中国の万人坑の章。語られる内容の恐ろしいほどの残忍さの一方で、シュールなほどおかしい。この中国人を松本人志が演じたら、最高におかしいコントになる。だが、そのおかしさを成立させている残虐行為を、現実に、日本人が行ったのである。
それでも人は生きていく。それが私には不思議なほどだ。現実は正直割り切れない。その割り切れなさを難しい議論でこじつけず、旅人の感性で取り上げたのがこの本の値打ちだ。実を言うと、大して期待していなかったけれど、とてもよかった。