ピート・ベスト

日曜日は、カズオ・イシグロの『日の名残り』の前に、ピート・ベストのインタビュー番組を見ていた。
彼は、ビートルズのオリジナルのドラマーだったが、メジャーデビュー直前にリンゴ・スターに取って代わられた。
わたしにとってのビートルズは、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴなので、その事実は知っていても、その間の事情にこれまで興味を持つことはなかった。
番組はメジャーデビュー以前を知る人たちの、回想や証言で構成されていた。土曜の夜に出演するビートルズを見ようと、キャバーンクラブのまわりには、金曜の夜からシュラフ持参の行列ができていたそうだ。革ジャンとリーゼントで決めているビートルズは、「衿なしスーツの」ビートルズよりはるかにかっこいい。その中でもひときわセクシーなのがピート・ベストだ。
番組を見終わっても、なぜ彼が首になったのかよく分からない。それもほんとにデビュー寸前で、あまりといえばあまりである。彼がブライアン・エプスタインのお誘いを袖にしたから、とか、ずっとマネージャー的存在だったピートの母上とブライアン・エプスタインがぎくしゃくしたから、とか、彼だけがリーゼントをやめなかったから、とか、色々あるらしいが、ともかくもドラムが下手だったというのは違うらしい。よく考えれば、もともと上手下手とか関係ないし。要するに、誰もはっきりした理由をいえない。
で、思った。ビートルズの存在は今でこそ巨大だが、当時は、ドラマーの首をすげ替えるくらいのことに、理由なんて要らなかったんだろう。正直いって、誰がこれほどの存在になると予想した?
ブライアン・エプスタインの方針で、彼らはお行儀よくなった。「みんなビートルズを見に来ていたんだし、ビートルズビートルズで何も変わらない。ただ、もうわたしのビートルズじゃなかった」と彼らを追い続けていた女性カメラマンが言った。
彼らが、リーゼントと革ジャンを、あのビートルズカットとネクタイに換えたについては、今までなんとなくもやっとしていたが、イギリスは厳然とした階級社会なんだと気が付いて、初めて腑に落ちた。ネクタイをすることは、上に上がること、彼らが音楽の力で這い上がったことを意味していたのだと思う。