スターフィッシュホテル

山種美術館千住博の絵を観にいった。松風荘の襖を飾る滝の絵である。千住博の滝の絵は羽田空港にもかかっている。
若いころの絵も何点かあって、その中の夜の街を俯瞰した絵が気に入った。絵を前にして思いにふけるような絵を描く人だ。
山種美術館は、速水御舟の「名樹散椿」と「炎舞」を所蔵しているとウェブサイトにあったので、見られるかと期待していたが、常設展示はしていないそうだ。速水御舟のコレクションはかなりの数に上るらしい。なかなか侮りがたい。
次に、ワタリウム美術館ブルーノ・タウト展を観にいった。この美術館のシステムは面白くて、いったんチケットを買ったら、会期中は何度でも観にこられるそうだ。ブルーノ・タウトは桂離宮の美を「発見」したドイツ人建築家である。アメリカ大陸はコロンブスが発見しなくてもそこにあり続けただろうが、桂離宮はブルーノ・タウトが発見しなければなくなっていたかもしれない。仏像はエメール・ギメが発見し、浮世絵はフランス人が発見し、写楽の正体だってドイツ人が発見したのだ。
タリバンバーミヤンの仏像を破壊したときは、ひどいことをすると思ったものだが、考えてみれば、明治の日本人も文化財の破壊に関してそれに勝るとも劣らない。ほんの100年ほど前は同じようなことをやったのである。
美術展を二本見終わってもまだお昼だったので、六本木のシネマートで「スターフィッシュホテル」という映画を見た。佐藤浩市主演でイギリス人が監督した映画である。
登場する三人の男性は同一人物と考えるべきだろう。ミスター・トリックスタートリックスターになりきれなかったのもそのせいだろう。夢か現かという映画は脚本を練りまくり、ディテールに凝りまくって、一回観ただけでは分からないくらいがいい。乗客が佐藤浩市一人だけの列車が雪の原野を走る。すっとトンネルに吸い込まれて暗転する。東北と東京のコントラストがよく効いていた。

徴用中のこと (中公文庫)

徴用中のこと (中公文庫)

井伏鱒二『徴用中のこと』を読み終えた。未完の長編随筆とでもいおうか。自分の戦争体験を語ることは、井伏鱒二氏の手にしてもなかなか困難なことらしい。当時、一般の兵士は、シンガポールが陥落すれば戦争はおわると思っていたらしい。日本の憲兵は、シンガポールでは12歳から78歳までの華僑の成人男子を、全員殺したそうだ。