ビートたけしの「誰でもピカソ」というテレビ番組で、ちあきなおみの特集をしていた。
「一生○○しません」とか、しますとか、10代のころ口にしたら、なんであれ、ウケねらいに決まってるが、40代になると、案外できることも「あるんちゃうやろか」という気がしてくる。それくらい、未来が擦り減ってきている。空白のページは残り少ない。その代わり、過去を振り返ると、時間軸方向に厚みが増している。無為に過ごした日々が積み重なっている。そこに見えるのは、空白のページを埋める設計図ではなく、時代がかった建物の落書き?
ちあきなおみの歌はそういう風にならないと聞こえてこないのかもしれない。今田耕司と渡辺満里奈がいたく感動していたが、今田にしたって、あたしと大してかわらない歳だし。
ちあきなおみは歌がうますぎる。演歌、ブルース、ジャズ、シャンソン、フォークまで、なんでもこなせる。船村徹は「音符の裏側を歌える」と評していたが、とにかく傑出した表現者の、その内面は、鑑賞者の側にいるもの、外陣のものには、うかがい知れないのかと思う。だんなさんが亡くなって、突然活動を中止してから、すでに15年だそうだが、こちら側にいるものが「もう一度歌え」というのは、ちょっと酷すぎるかも。
それに、歌わなくても、歌がどこかにあるのではないか、とも思えるのだ。中島敦の「名人伝」を思い出しているところ。中国一の弓の名人が射をきわめて、ついには弓を忘れてしまうという話だ。東洋では、忘却は理想の完結でもありうる。しかし、それも凡人にはうかがい知れない境地であるには違いない。
ちあきなおみ VIRTUAL CONCERT 2003 朝日のあたる家
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