プレステージ

knockeye2007-06-03

この間までテレビで盛んに宣伝を打っていた『プレステージ』という映画の原作は、クリストファー・プリーストの『奇術師』だった。「だった」というのは、今ひっこしの荷物を整理していて、その本を手に取ったからである。
(原題が「プレステージ」なんだから何言ってんのということだけれどね)
あの映画のCMを見ていて、多分そうだろうなとは思っていたのだけれど、文庫本の帯にちゃんと映画化決定と書いてあった。
小説は面白かったのだけれど、あのオチがちょっとわたくしの好みではなかった。
落語じゃないからオチはいらないのだけれど、最後にストーンと落とされると気持ちがよいので、その快感を求めてしまう。その気持ちよさというのは、話の世界からこちらの世界に一気に押し戻される気持ちよさ、というか、言い方をかえれば、話の世界が一気に消滅してしまう気持ちよさである。上方落語で言えば「肝つぶし」とか。
「立ち切れ線香」みたいな人情ばなしでもオチはみごとなもので、涙がすっとひく。あのあたりに芸の見事さを感じてしまう方である。感覚が古典的過ぎるかもしれない。「もっと泣かせろ!」みたいなことは思わないほうである。
『奇術師』は、しかし、いわば二段落ちだったか、記憶があいまいだけれど、あれはあれで楽しめた。じゃあ何に文句があるのかというと、「SFだと思ってなかったもん!」という苦情なのである。むこうにすれば「SFじゃないとも言ってねぇだろ!」つうことではある。
虚々実々のバランスを保ってたところが、最後に虚に倒れた感じがちょっと残念な気がして。くどいようだけど、面白かったのは面白かった。読む側は贅沢なことを言うのである。