『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』

ナボコフの短編全集2が手に入らなかった。9000円くらい出すと買えるのだけれど、どう思います?エロのためなら平気で払うくせに、本のためだと払えないのかと言われるとつらいところ。まぁ、しかし、手許に『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』(1200円也)があるのだし、それを読んでからでも遅くはない。
この小説は、ナボコフが英語で書いたはじめての長編だそうである。ナボコフはあまりロシア人ぽく感じない。イチローが日本人ぽくないのと同じで、図抜けた才能は国籍の色に染まらないみたいだ。もともと家庭環境もマルチカルチャリズム推奨だったようで、自伝によるとロシア語を読むより先に英語を読めるようになっていたそうだ。ロシアの名門貴族の出であるが、この小説は亡命中、パリのフラットの、しかもバスルームの中で執筆したそうだ。ひと部屋しかなく、こどもがまだ幼かった。
『ロリータ』もそうだったけれど、ナボコフの小説はパイのように層が重なっていて、しかもロシア料理の伝統にのっとって、優秀なギャルソンが手際よく皿を運んでくれる。読み方によっていろんな味が楽しめる。あたしみたいに適当に読み流していても、すごく面白かった。
略歴を見ると、ナボコフの実人生は革命と殺害に付きまとわれている。『ロリータ』に背徳的な一面があるとしても、「それがどうした」てなもんであろう。国を失って母国語を捨てて小説を書いているのである。
昨日は、台風のなか、人間ドックに行ってきたので、今日のうんちは白い。これといって異常はなかった。自分の身体が数値化されるのは面白い。ダイエットにハマって拒食症になってしまう人も、入り口はこういうところなのかもしれない。「自分とは何か」という、言葉ではとても答えられない問いに、全く違うアプローチから簡単に答えが出てしまうのだから、これは心理的に楽である。
爆笑問題が大学教授を訪ねていく番組があったが、ある教授が「文系の学問は答えが出ないから面白くない。昔の偉人の言葉の解釈をめぐっていまだに議論している」といっていた。おっしゃるとおりで、「このときイエスキリストがいった言葉の意味は・・・」とかの議論は最後には戦争でもしないかぎり決着はつかない。