『三人』

去年の夏、金子光晴の手書き詩集が古書店で発見されたそうなのである。
『三人』と題されていて金子光晴自身の作とともに、夫人の森三千代、子息の森乾の詩も収録されていて、すべて光晴自身の手で清書されている。
金子光晴は、息子乾を杉の葉で燻して、にわか喘息にし、徴兵逃れをさせた。この詩集は、そのきわどい逃避行のころ、家族で山中湖畔に隠れ住んでいた時期に、書かれたものなのである。
手書き詩集といっても、大学ノートに書かれてるようなものではなく、ちゃんと装丁もされて、帙にまで入っている。この詩集がなぜ出版されなかったのか不思議な気がする。
息子を出征させなかったのと同じ理由だろうか。
しかし、何により不思議なのは、そういった詩集が、今ごろになって発見されたことだ。まるで、本自身の意志でもあるかのようだ。