デトロイトメタルシティ

昔、小林秀雄は言ったもんだった、「モーツァルトの悲しみは疾走する」と。
しかし、私は思った、ヨハネ・クラウザー2世の疾走には悲しみも追いつかない。
ジーン・シモンズ演じるジャック・イル・ダークとの対決シーン、湧き上る根拠のない感動をどう説明したらよいだろうか。
小説でもマンガでも、人気のある原作の映画化は大概失敗するものだけれど、これはなかなかのものなのではないだろうか。原作のコアなファンの意見を聞きたいものだ。
李闘士男の演出と大森美香の脚本が、劇画の文法を上手く消化しているのが勝因ではないか。
松山ケンイチの、根岸崇一とクラウザーさんを行き来する変身ぶりの切れのよさが小気味いい。
大倉孝二の存在が効いている。あのファン(信者?)の視点がないと、何のことだかわからなくなってしまう。
相容れない価値観が衝突してあちこちで火花を散らしあう、花火大会のような映画。
その衝突の中心に松山ケンイチが立っているわけである。
松雪泰子のサービス精神が素晴らしい。忘れているかもしれないけれど、このひとはごっつええ感じの初期のメンバーなんだよね。たたみかけますね。こういうときに間を間違わない。
根岸の童貞は松雪泰子に奪ってほしかった気がする。そうとれるシーンがなくもないが断定は出来ない。
遊園地での二重三重の鉢合わせシーンは最高に面白かった。あそこから演出が加速したように思う。
松山ケンイチは役にすっぽりはまっていた。遊園地でヒーローショーを見ていた子供が、突然現れたクラウザーさんに「かっこいい」という。
おかしさが突き抜けてかっこよくなってしまっている。あるいはその逆で、かっこよさが突き抜けて、とてつもなくおかしい。