村上龍と竹中平蔵の対談

今月十日の「カンブリア宮殿」で、村上龍竹中平蔵の対談、聞き書き
「マーケットとか市場の話になってくるとですね、竹中さんがおいでなのでアレなんですけど、今、格差がでてしまったとか、あるいは、地方経済が疲弊してしまったっていうのがですね、どうしてあの構造改革のみんなせいになってしまうんですかね。」
「いえ、わたしも、だからそれを誰か説明してくださいと、ずっと言ってるんですけど、だれも説明しませんね。」
「でも竹中さんってアレですよ。目の仇にされてるでしょ」
「いや、そうですそうです。」
「ただ、竹中さんは、市場原理主義ですか。違いますよね。(笑)」
「違いますよ(笑)私はよく言うんですけど、私は不良債権の処理をしましたと。あれは政府が介入したんです。ね。」
「そうですよね。」
「だから(市場原理主義とは)全く違うことを実はやってるんです。」
「竹中さんがやったことで一番大きいのは、あの不良債権の徹底的な公的資金の注入ですよね。」
「はい」
「あれは市場原理主義とは全く反する行為でしょ」
「全く違う。どこが市場原理主義なんですかということですよね。」
「僕ね、地方の土建業者の方が、竹中さんを悪く言うのは分かるんですよ」
「そうそう」
「公共事業が減りましたから。ただ、そのなんていうのかな、あのときの小泉竹中改革というのが今の格差の原因とか、あれが市場原理主義とか言われてますけど、僕は小泉竹中改革をすべて支持しているわけではないですし、不完全な部分もたくさんあったと思うんです・・・」
「いやいや、不完全なことばっかりだと思いますよ。」
「特に、郵政にしろ道路公団にしろ、ああいったものはもっと突っ込んでやるべきだったと思ってるんですね。ただですね、僕がフェアじゃないと思うのは、今の日本を蔽ってる問題、たとえば格差にしろ、ま、格差問題って竹中さんもおっしゃってる通り貧困問題ですからね、貧困の問題にしろ、あるいは地方の疲弊にしろ、それをですね、スケープゴートを捜すように、小泉竹中の改革のせいだというのはフェアじゃないと思うんです。」
「ええ。まぁ、私はあんまり気にしてないんですけどね。」
「そうですか。」
「まともな人はそんなこといってませんから。変な人ばっかりがそんなこと言ってますから。私はあんまり気にしてないです。」
「でも、どうしてあんなに毛嫌いされちゃうんですかね。既得権益の問題ですかね。」
「ああ、そうでしょ。既得権益でしょ。・・・あのう、なんか話を聞きましたけどね、鵞鳥というのはライオンに襲われたらですね、首を地面の中に突っ込んで見ないんだそうですね。今、グローバリゼーションというものすごいライオンが、攻めてきてるわけで、それを首を土の中に突っ込んで見たくないと。でも見ないと負けますよ。」
「そういうメタファーをやるからまた嫌われちゃうんじゃないですか。(笑)」
「いやいや、私は別に嫌われてもいいと思ってますよ。誰からも好かれる必要ないですからね。みんなに好かれるために発言したら学者じゃないですよね。」
「僕はひとつ懸念するのはですね、そうやってただでさえ構造改革、あるいは規制緩和とかいった方向をね、ただでさえサブプライムローンの前から、いろんな人から批判があったときに、これだけ大きな金融危機、金融不安が起きた時に、『ほら見ろ』っていう人がいるんですよ。」
「ええ、そうです。」
「『市場は間違うじゃないか。だからやっぱり規制は必要だ』っていって、なんかその、ただでさえ止まりがちだったその方向性がですね、さらに閉ざされるような気がするんですけれど。」
「いや、私もそのように思います。まあしかし、そこはほんとうにですね、今、各国が叡知を競ってるんですよね。あの、そういう風に、間違った判断を国民全体がもししたならば、やっぱりその国の経済は沈みます。」
「危ういですよね」
「危ういです。非常に危ういと思います。」