派遣の現場

このところの「年越し派遣村」のニュースを見ていれば、誰でも「派遣で働くのはちょっと・・・」と思うだろう。つまり、派遣業界にとっては、手痛いネガティブキャンペーンになっている。もし、派遣業者の側から、有効なアクションが起こされなければ、派遣業そのものが存亡の危機にさらされるかもしれない。現に製造業派遣を禁止しようという動きも出てきている。
ただ、派遣の現場を知っているものとしては、規制が緩和されたから非正規雇用が急増したという見方には疑問を感じる。
なぜなら、法律が緩和されるずっと前から、私自身、製造業派遣で働いてきたからだ。
ただし、当時は「派遣」とはいわず「業務請負」と称していた。「ねずみ色」を「くすんだ白」と呼んでいたようなものだが、それだけで、法の目をかいくぐれるものらしい。
だから、法律の製造業への派遣の拡大は、現状の追認にすぎない。「急増」の中身は「業務請負」が「派遣」という呼称に変わっただけではないかと考えている。

もちろん、非正規雇用セーフティーネットは不十分だと思うし、改善されなければならないと思うが、もし、トヨタ派遣社員が月にいくら貰っていたのかを知ったら、感情的な同情論は後退するだろうという気がする。
法律で「派遣」を禁止すれば「業務請負」に戻るだけのことじゃないだろうか。現状を無視した法律を作っても有効とは思えない。
雇用の増減は法律とは関係がない。雇用を創出するためには、新しい産業が必要であり、新しい産業を興すためには、政財官癒着の既得権益を壊さなければならない。改革を後退させてしまったら、既得権益の思う壺なのである。
お正月は週刊誌が一回休みになるので、ふだん読まない週刊現代を買ってみた。辞めたはずの大橋巨泉がいつの間にか復活していて、びっくりするようなコラムを書いていた。読んだ人もいると思う。
文章を読むためには、小学生程度の読解力があればいい。それが数学や物理と違うところ。だから、大橋巨泉が新春号に書いたコラムの内容も誰もが理解できるはずだ。
紹介すると、まず、
失われた十年を経てようやく景気が上向いてきたのに、突然、大恐慌がきた。」
ということが書いてある。
その次に
「それというのも、『単に総理になりたかっただけの男』小泉の言いなりになった国民に責任がある」
と書いてある。
次に
「小泉と竹中は日本をアメリカ型の『資本万能主義』の国にしようとした」
と書いてある。
次に、社会主義と資本主義の特徴を書いている。ちなみに
「こんなことは半世紀以上前に経済の時間に教わったことだ」とも書いているし、現にそれ以上の内容はないように思う。
そして、解決策として
「資本主義と社会主義のいいところをとったシステムにすることだ」
と書いている。
こんなことも書いてある。
「そして最も重要なことは、国のリーダーには、物事を両面から見られる人物を選びたい。
 はっきり言わせてもらえば、現在の首相と正反対の人である。」
そして、くくりとして、国のリーダーは資本家に我慢させて労働者に優しくしなさいと書いてある。
これで要約できていると思うが、さて、どう思われるだろうか。
いちいち検証する必要があるとも思えないが、ひとつだけ言っておくと、「現在の首相と正反対の人」って誰?
竹中平蔵市場原理主義者と非難しようとする向きがあるみたいだけれど、その不毛の議論に足を踏み入れるよりも、まず、私が信じていることは、現場は「主義」や「原理」で動きはしないということだ。
私みたいなごく普通の市民が政治家に「主義」や「原理」を求めて何の意味があるのか。
不良債権を処理して、バブル崩壊後十年も不況に沈んでいた経済を立ち直らせた、その結果こそ、普通の市民が政治に求めていたものではなかっただろうか。
大橋巨泉は多くの国民から信任を得て政治家になったはずだった。
政治の現実が自分の思うようにならないからといって、国民の票をどぶに捨てるようにして現場から去った。そして、上記のような文章を書いている。
それを読んで、「小泉竹中の言いなりになった自分が悪かった」と反省する国民もきっと多くいるのだろう。私にはとても不思議だ。