オバマ新大統領の就任演説

「皮肉屋は足元で地殻変動が起きていることを理解していない。時間を浪費しすぎたカビくさい政治論争はもはや通用しないのだ。我々が今日、問うているのは、政府が大きすぎるか、小さすぎるかではなく、機能しているか否かということだ。まともな収入を得る仕事、手が届く保険、尊厳ある老後の生活。これらを各家庭が手に入れられるように、政府が手をさしのべているかだ。
 答えがイエスな部分については、我々は前進させる。答えがノーな部分については、その事業を中止する。公金を管理するすべての者は説明責任を負う。使うべきところには賢く使い、悪い習性を改め、誰からも見えるように仕事をしてこそ、初めて国民と政府の間の信頼を取り戻せるのだ。」
サンデープロジェクトで、オバマ新大統領の就任演説を、佐藤優が分析していた。テレビ初出演だそうなのである。佐藤優の肩書きは「作家」であるとともに「起訴休職外務事務官」だ。
彼の著書『国家の罠』を読むと、東京地検鈴木宗男につながる事件を作ろうとして果たせなかったのは佐藤優の抵抗のためである。彼が、ライブドアの幹部の一人のように、検察のシナリオに沿った供述をしていれば、鈴木宗男の政治生命は絶たれていたと思われる。
鈴木宗男佐藤優に恩義を感じていないはずもないし、東京地検が遺恨を覚えていないはずもない。
512日間の拘束に耐えた佐藤優が用心深くないはずはないので、このテレビ出演が何を意味しているかとちょっと考えているところ。
佐藤優は今週の週刊文春にも
「麻生自民はこれだけ日本をダメにした」
という鼎談記事に登場しているし、週刊ポストの新年号には田原総一郎と対談している。ちなみに、今日の田母神論文のくだりと、オバマ時代の日米関係についてはその反芻だった。
鈴木宗男の事件が、ほぼ東京地検のでっちあげだったとして、それは小泉政権下の出来事だし、どの程度これに小泉純一郎がかかわっていたかは分からないにしろ、すくなくとも鈴木宗男小泉純一郎に含むところがあるはずだし、佐藤優もそうなのではないかと考えていたが、文春の記事では、佐藤優小泉純一郎の総理としての実力をむしろ評価している。
意外というほどでもないが、何か裏があるかなと思いをめぐらしている。
オバマが演説でヒンドゥー教徒に言及したのは、アフガニスタンの対テロ対策にインドを巻き込むつもりだろうという分析をしていた。「地政学的に」アフガニスタンイスラム原理主義者たちをおさえることには反対するものがいない。つまり、イラクから手を引いて、アフガニスタンテロとの戦いの主戦場と位置づけたオバマのセンスはやはりいいということだろう。
テロとの戦い」という言葉は、それ自体ブッシュの頭の悪さを示している。具体的に何をさしているかまるで分からない。何のために戦っているか分からなければ泥沼化するのは当たり前だ。
オバマは利害を共有する周辺国家を巻き込んで、タリバンの穏健派との対話で事態を収拾する意向らしい。
イラクの方は「ブッシュの私怨」だったと佐藤優は言った。みんな内心知っていたし、あまりにも自明なことだったので今更な気がするけど、誰も明言はしていなかったかもしれない。
イラクにはウサマ・ビン・ラディンもいなかったし、核兵器もなかったのだから、私に言わせれば、実態のよく分からない「テロとの戦い」そのものが、ジョージ・W・ブッシュの「お父ちゃんの仇」にすぎなかったと思う。
アメリカの外交上の最大のネックはイスラエルにものが言えないことだ。アメリカがイスラエルパレスチナに公平な態度さえとれれば、中東問題のほぼすべてがすっきり片付くと思うのだけれど。
「共同の防衛について言えば、安全と理想をてんびんにかける誤った選択を拒絶する。建国の父たちは想像を絶する危険に直面しながらも、法による支配や人権を確約する憲章を書き上げた。憲章はその後、何世代もが血を流したことにより拡充されてきた。その理想は今でも世界を照らし、我々は時々の都合で放棄したりしない。だから、今日(就任式を)見ているすべての(外国の)人々と政府に言いたい。そこが巨大な首都であれ、私の父が生まれた小さな村であっても。米国は平和と尊厳の未来を志すあらゆる国とあらゆる男性、女性、子供の友人である。そして我々は再び先頭に立つ用意ができている。 」
この部分をパレスチナ問題に照らすとどうなるのだろう。
アメリカのイスラエル偏重がいつか変わる日が来るのかもしれないし、その「いつか」が今回である可能性もあるわけだ。
アメリカ人はこの就任演説を、日本人が玉音放送を聴いたように聴いただろうと佐藤優は言ったが、どうなのだろう。もしそれほどのインパクトがあったのなら、確かに大きな変化を期待してもいいはずだろう。