「ハッピーフライト」

 時流に乗り遅れまいと、自主的に操業停止。小林信彦の勧めに従い「ハッピーフライト」を見に行った。
 何しろ、ついこないだまでいざなぎ景気を超える戦後最長の好景気だったわけだから、有給休暇だけはたまっている。おなじくらいカネがたまっていないのが不思議。
 ひたひたと忍び寄る不況の波に見て見ぬふりをしているが、もし津波がくるならもう逃げ遅れたかもしれない。
 思えば1980年代からずっと、小林信彦が良いといえばとりあえず試してきた。それでまぁ、休日を無駄にしないですむ。そういう存在がいてくれるのはありがたいと思う。特に映画に関してはまず間違いない。「チェンジリング」も見に行くつもりだ。
 今でも空港は独特なドラマチックな空気を持っている。「ハッピーフライト」は、そんな職場としての空港を舞台にした群像劇。こういう作品はディテールにどれだけこだわったかが決め手だと思う。画面に説得力があるのは脚本の段階で徹底的に取材を積み重ねたからだろう。
 一便の旅客機を飛ばすために働いている多くの裏方への目配りは、一本の映画を作り上げるためにどれだけのスタッフが働いているか、ものづくりの現場の一員としての監督の共感が反映しているとも思えた。
 私自身は仕事が大嫌いだし、仕事が好きだという人間は信用しない。ただ、私が大人として間違いなく知っていることは、私の仕事は別の人の仕事につながっているのだし、その人の仕事はまた別の人の仕事へとつながっているはずだということ。
 その自覚を持っていない人はどんな大企業のトップだとしても、社会人として認めるつもりはないし、逆にその自覚を持って働いている人は、アルバイトでも、派遣社員でもプロだと思う。
 レストランの椅子に腰掛けた田畑智子の後ろに、オフフォーカスで黄色いトランクがフレームインしたときはほんとによかったと思った。  
 この映画が作られた時はまだ好景気だったはずだ。でも、今よりもっとひどい時代になっても、私は働く人の尊厳を踏みにじる側に付くつもりはない。私は敵と味方を間違わないつもりだ。
まぁ、そうありたいということかな。