葛藤が宿る場所


鳩山由紀夫民主党代表になったので、「次の首相に誰がふさわしいか」というアンケートをテレビでとっていた。その結果をみると、一位に来るのは麻生太郎でも鳩山由紀夫でもなく、今でも小泉純一郎である。
一般の人の多くはたぶん政権交代を望んでいる。でなければ、永遠に官僚支配が終わらないことに気がついているからだ。
結局、現実に官僚と闘った政治家は小泉純一郎だけである。最近よく「小泉改革の功罪」みたいなことを耳にするが、功罪もなにも改革そのものは、まだやっと手を付け始めたばかりだったと思う。
それを引き継いだ安倍と福田が二人そろって政権を投げ出してしまった。そしてそのあとの麻生太郎は、大前研一が指摘しているとおり、完全に役人の言いなりの「改革骨抜き内閣」である。
郵政民営化は「実は私は反対でした」といい、盟友鳩山邦夫と組んで、西川社長を追い出し、旧郵政官僚を社長につけようと画策している。
麻生太郎は、小泉純一郎を「突然変異」だと言ったが、あの男の言葉にはめずらしくこれだけは本当であるらしい。それまでの自民党政権は官財と癒着して国民のうわまえをはねることに専念してきた。
本来なら国民に再分配されなければならない公の財産を、必要もない事業につぎ込んで、その上澄みを官僚と族議員で吸い尽くしていれば、いつか国は破綻する。
破綻したままその処理もできずに、歴代政権が十年もおろおろしていた不良債権を、現に処理したのは誰なのか。
今、麻生太郎がもてあそんでいる300の議席は、国民が付託した改革の意志である。
参議院で否決された郵政民営化を、衆議院選挙に問うたことを、政治の常道ではないと批判する声もあったが、麻生太郎は、国民に問うことすらせずに、勝手に改革を骨抜きにしている。
鳩山由紀夫小沢一郎の傀儡だという、一見ごもっともな批判もあるが、大久保秘書逮捕以降、鳩山由紀夫はよく戦ったと思っている。
本来なら小沢一郎自身が矢面に立って声を嗄らして熱弁をふるえば、これだけ検察批判が高まっている中、今度のことは民主党が浮上する絶好のチャンスだったと私は思っていた。
しかし、小沢一郎という人はそういうことをしない。これは、政治家として非常に奇怪な感じがするが、そこは、小沢一郎の政治家としての葛藤が宿る場所なのかもしれない。
だが、政治家は、目に見える大衆にではなく、本来あるべき国民に語りかける努力をすべきではないかと私は思う。
今週の週刊SPA!は、小沢一郎辞任についてのさまざまな反応が見られておもしろい。
ともあれ、前にも書いたとおり、戦局は少し動いた。そして、誰がなんといおうと、現にそれを動かしたのは小沢一郎なのである。
代表辞任は想定外だったが、官僚とマスコミの包囲網に対して有効な一手ではある。
「小沢辞任の際には自分も辞任する」と明言した鳩山由紀夫が代表に就任したのは、事実上、まだ小沢一郎が辞任していないという意味なのだと私は解釈している。まだ終了のホイッスルが鳴っていないのだと。