辞任というカード

きのうは、2月12日から2月20日までにかけての報道を追いながら、麻生太郎森喜朗鳩山邦夫らが、「かんぽの宿」を手がかりに、どのように「郵政民営化つぶし」を画策し、小泉純一郎がそれをどう阻止したかを考えてみた。
おさらいすると、「かんぽの宿」で西川氏を悪者に仕立て、後任に旧郵政官僚を据え、小泉純一郎をロシアに隔離した間に、「郵政4分社化見直し(事実上の民営化つぶし)」を既成事実化するつもりであったと思われるが、小泉純一郎が訪ロ直前に記者会見を開き、麻生政権を痛烈に批判したことで、この計画は潰えた。
12日には、すでに「日本郵政西川善文社長の進退問題」に言及し、後任に、「元郵政事業庁長官の団宏明副社長」の名前を公表していたにもかかわらず、小泉純一郎が会見を開いた翌13日になると
「西川社長にはまだ重大な仕事が残っている」

「西川社長や(オリックスの)宮内義彦会長とけんかするとの意識はまったく持っていない」
と、手のひらを反した鳩山邦夫の発言をみれば、だいたいの想像はつく。
事実、この日をさかいに麻生太郎森喜朗鳩山邦夫の三人の「郵政4分社化見直し」の合唱がぴたりと止んだ。
麻生太郎を痛烈に批判した後、小泉純一郎は2月14〜20日にロシアを訪問、その帰路に、
定額給付金関連法案の衆議院での再議決に欠席する」
と表明したのである。
麻生政権は事実上官僚の傀儡政権だ。西川更迭と郵政4分社化見直し工作が失敗した直後だけに、この小泉発言は「反攻開始宣言」ととらえられただろうことは想像に難くない。
官僚サイドは、郵政民営化に手をつければ、小泉純一郎は本気で党を分裂させかねないと感じただろうと思う。そうでなくてもすでに支持率が10%を切っていた麻生政権は、小泉欠席に同調者が出ることを極端に恐れたはずである。そうなれば、麻生下ろしが一気に本格化することは目に見えていたからだ。
小泉純一郎に、実際に大きく局面を動かす意思があったかどうか、今となってはわからない、が、ひとついえることは、小泉純一郎の影に、官僚側は実際以上におびえたということだ。
郷原信郎だけではなく、多くの検察OBや議員秘書経験者が、首を傾げる、あるいは、憤りをおぼえるような無理筋で、大久保隆規氏の逮捕が、「定額給付金関連法案再議決」の前夜というタイミングで強行されなければならなかったのには、こういう背景があったと思う。いるかいないかわからない小泉欠席の同調者を牽制するためには、そのタイミングしかなかった。
2月19日の小泉発言から3月4日の議決までにどうしても事件を作らなければならなかったのだ。
そういう意図を知悉しているからこそ、漆間巌官房副長官は「捜査は自民党議員に波及しない」と発言したのだろう。背景を知る立場にあれば、当然その発言が出るだろう。
二階建設大臣の秘書に参考人聴取が行なわれたが、もちろん逮捕もされなければ、不可解なことには、(いや、当然というべきか)テレビでは報道さえされなかった。漆間発言がなければ参考人聴取さえなかったのかもしれない。
以上のようなことが、いわゆる「かんぽの宿」問題から、いわゆる「西松献金事件」にいたる報道を見ていて私の感じたことだ。
あえて語弊を怖れずに言えば、私には「かんぽの宿」にも「西松献金」にも大きな不正や違法性を感じない。
語弊の部分を説明すれば、「かんぽの宿」に問題があるとすれば、そういう問題が起こりうるからこそ、郵政事業を分社化し民間の経営に任せようとしたのである。「かんぽの宿」が問題だから、「郵政4分社化見直し」という鳩山邦夫は支離滅裂である。そもそも、「かんぽの宿の売却」は、郵政民営化するとなったときから決まっていたことだ。
「西松献金事件」についていえば、小沢一郎献金された金額は、2003年から合わせて2300万円である。年間5〜600万円程度の献金が、どのような形で献金されようとも、それが「政治とカネ」とか大見得をきるほどの問題だとは私には思えない。ましてや、小沢一郎の場合、きちんと政治資金収支報告書に記載されていた「表のカネ」だったのである。
二階大臣の場合、4000万円のマンション代金を迂回融資させていた裏金であるから、小沢一郎のケースよりはるかに悪質だが、しかし、それでさえも通常ならニュースとして大きく取り上げられる事件にはなっていなかったろうと思う。
たしかによいことではないだろう。しかし、政治にも金がかかるに違いない。その程度の企業献金まで問題視するとすれば、企業献金を全面禁止するしかないという小沢一郎の言い分はもっともだと思うし、それはよいことだろうと思う。
ただし、問題なのは、こういう経緯のなかで、どういうわけで鳩山邦夫が正義、不正義(そんな日本語があるんだろうか?もしあるとしても使用例は少ないのだろうと思う。「不正義」という言葉は、個人的には今回のことで初めて耳にしたと思う。)とわめきたてているのかということと、それをまたどうしてテレビが煽り立てているのかということだ。
こうしてみてきた一連の流れの中でどこかに正義と関わりのあることがあっただろうか。
私は一市民として、この流れを普通に新聞、テレビ、インターネットのニュースを通じて追ってきただけであるが、どうして鳩山邦夫が正義の味方なのか全く理解できない。
「2400億円かけて造ったものが、売るときは109億円にしかならない」
それがなにかおかしいか?
普通に企業社会でめしを食っている社会人なら、そんなことをおかしいと思うほうがおかしいはずだ。
東京中央郵便局、あんなものが「遺産」か?
知床、やんばるの森、長良川河口堰、自民党政治が破壊してきた各地の自然は枚挙に暇がないはずだ。
誰が一体鳩山邦夫を正義の味方と思っているのだろうか。
大久保隆規が逮捕されたときに、高野孟や他にも多くの人たちが、小沢一郎の辞任は民主主義の敗北で、辞任すべきではないと主張するなか、田原総一郎は、小沢一郎は辞任というカードを握ったと言った。
私も、絶対辞任するべきではないと思ったし、もし、小沢一郎逮捕ということになっても、獄中から選挙を戦いぬけとまで書いた。
しかし、どうやら田原総一郎が正しかったようである。そして、当の小沢一郎田原総一郎よりの意見だったようだ。
それは、この国の国民のリアリティーとじかに向き合う立場に立てば、そういう意見になるのかもしれなかった。
少なくとも私には、鳩山邦夫が正義の味方に見える人の気持ちがわからない。田原総一郎や、小沢一郎小泉純一郎にはそれがわかるのかもしれない。