「扉をたたく人」

展覧会を観終わってちょうど上映時間があったので、恵比寿ガーデンシネマで「扉をたたく人」。
ブッシュ時代に始まったアラブ人たちに対する虐待について、アメリカ人がどう感じているのかということを少し知りたくて。
この映画の原題は「the Visitor」だが、「扉をたたく人」という邦題はうまい。主人公の教授と青年が心を通わせるきっかけとなったジャンベという太鼓とかかっているし、ラストシーンともうまく呼応している。
しかし、ビジターという言葉の持つ苦味は失われたしまった。
ビジターはもちろんNYの不法滞在者たちのことを指しているが、映画のなかでも自由の女神のシーンでほのめかされている通り、アメリカはもともと移民が自由を求めて建国した国である。その意味で、移民を差別することは、彼ら自身の心のどこかに痛みを生じさせるはずである。そのへんのことは、リチャード・ジェンキンスのペーソス溢れる演技が雄弁に語っていた。
と同時に、ビジターという言葉は、現在の泥沼化する中東の状況に対する、一般のアメリカ人の無力感を表しているとも思えた。
アメリカ人はもっと積極的に政治に参加している人たちなのかと思っていた。少なくとも自分たちが政治を変えられるという意識は持っているのかと思っていた。
たぶん持っているのだろう。それは、オバマ大統領の就任演説を見てもそう感じられる。だが、この映画に感じられるものはむしろ疎外感であった。
この映画は、リチャード・ジェンキンス演ずる老教授の視点から描かれているが、シリア青年タレクの視点で描かれればずっと重い映画になったはずである。しかし、それをあえてせず、二人を音楽で結び合わせたところに、この映画のメッセージがあると思う。