この映画で初めて知ったが、「プール」の舞台タイにはコムローイという行事があるそうだ。紙で作った簡単な熱気球のようなものを夜空に放って願いをかける。まるで精霊流しのようだなとおもった。
わたしたちの国のお盆は、いちおう仏説盂蘭盆経にその起源を持つとされているが、盂蘭盆経じたいがすでに偽経だといわれているし、じつのところこの習慣がいつ始まったのかはさだかでないらしい。
いずれにせよ、私たちは夏のさなかに死者の国に思いを馳せる。そのことが私たちの文化になにかしらの陰翳を与えてこなかったはずはない。生命のもっとも横溢する季節に私たちは死者たちを迎えいれる。
監督の大森美香はどこかで聞いた名前だと思ったら「デトロイトメタルシティー」の脚本家だった。脚本と監督を兼ねるのは今回が初めてだそうで、その意味ではこの「プール」には大森美香の作家性が強く反映されている。
原作は桜沢エリカ。
雑誌のインタビューに
「場所とキャストは決まっていて、そこでお話を考えてほしいといわれたのが始まり。私の書いたネームをもとに作られた脚本で映画が撮られ、撮影現場の写真などを資料に、並行して漫画を描きました」
原作本といってもこういう経緯であったそうで、原作より先に映画が完成したらしい。
単に映画と原作におさまらない刺激的な関係で、桜沢エリカは原作を「攻略本」だといっているそうだ。
海外リゾートを舞台にしたぬるい映画だと思ったら大きな間違いで、ラストの何分間かは「やられた」と思った。
小林聡美が自由に生きる母を、伽奈が4年ぶりにその母を訪ねてくる娘を演じているが、母と娘が女として自立していく姿を声高ではなく、日常の奥深くに沈めるように描いている。
安易に答えや和解に導こうとはしない。大森美香も桜沢エリカもそのむずかしさを身にしみて知っているのではないかと思う。
繰り返しになるけれど、ラストシーンの美しさは特筆もの。あそこを見逃してはいけない。
ただ途中カメラワークに疑問を感じるところもあった。どうしてここクレーンなのかなとか。
でも、そういうこと気にして映画が楽しめないのは、どちらかというと鑑賞者の態度の問題だと思います。
メッセージは全編を通じてぶれないし、芯にあるテーマがラストに浮かび上がってきます。
わたしは「クリーン」のオリヴィエ・アサイヤスに見せてやりたいと思いましたね。
それにしても、もたいまさこはなかなかにくせものでした。
それから、ハンバート・ハンバートの歌う主題歌「タイヨウ」もとてもいいです。