柴田是真

11月上旬なみという晴れた空の下、薄着して出かけるのは気持ちのいいものだ。昨日の雨に洗われたせいで空気も澄んでいる気分。
受付に顔を憶えられるのではないかと思うほど、このところ通いつめている三井記念美術館に、今回は柴田是真を見に行った。
幕末から明治にかけて活躍した漆芸家で、国内より海外で評価が高いため、作品のほとんどが流出している。今回の展示の中心となるのも、アメリカの個人蒐集家のコレクションなのである。
‘Japan’という単語を、私たちの国名と分け合うにもかかわらず、私が漆塗りに興味を持ち始めたのはごく最近。決定的だったのは、伊藤若冲を見に行った‘皇室の名宝展’で、漆芸や七宝といった当時のクラフトの水準の高さに圧倒されたこと。名もない江戸の職工たちのできたことが、今は誰も真似できないという例も多いらしい。近代日本のアカデミズムが、アートを重んじクラフトを軽んじてきた結果でもあるだろう。
しかし、レオナール・フジタのことを考えると、クラフトだけとはいえないのかも。アートについても事情は同じで、浮世絵から、最近ではアニメまで、海外で評価されてはじめて価値に気付くといった例がほとんどであるように思う。
作り手はすばらしいのに評価する側にろくなのがいない。少し不思議である。
たぶん、作り手より‘上から目線’のこの国の批評家たちには、そもそも芸術に対する畏敬の念がない。そのため、お仕着せの価値観からはみ出る作品は、ほとんどすべて彼らの手に余るということなのだろう。
今回の展示でのマイベストは柴田是真が復活させた‘青海波塗り’の<波に千鳥角盆>。
黒一色の画面に浮かび上がる青海波のマチエール。アクセントに小さな銀金貝の千鳥が飛んでいる様子が渋い。
是真は絵も一流で当時から画家としての評価も高かった。年長の歌川国芳が彼の絵に感動して弟子入りし、‘仙真’という号をもらったそうだ。
‘漆絵’という技法の絵も展示されていたが、日本画でも油絵でもない独特のボリューム感がある。<南瓜に飛蝗図>の花びらの表現などをみると、こういう方向に日本画が進んでいたら、また別の地平が望めただろうなという気がした。たとえば蕭白の絵などはむしろ漆絵のボリューム感が似合っているのではないかと思った。
この展覧会は、この後、京都の相国寺承天閣美術館と富山水墨美術館に巡回する。どちらもこれを見るのにふさわしい場所だと思う。