森繁久彌

knockeye2009-12-19


銀座シネパトスで、「日本映画レトロスペクティブ 〜Part6〜 喜劇 みんなで笑い初め!」と銘打って、森繁久彌の主演映画が特集上映されている。
スケジュールはこちら↓
http://www.humax-cinema.co.jp/cinema/special/meigaza/ginza_meigaza2.html
今日は、
「喜劇 駅前旅館」と「喜劇 駅前団地」の二本立て。奇しくも今週の週刊文春小林信彦が取り上げていた。ちょっと無断で引用する。

 後年、朝日新聞社のパーティーで、和服を着て肥った井伏鱒二(椅子にかけていた)に、森繁が映画の中の課長よろしく最敬礼しているのを目撃したが、「駅前旅館」(純文学!)の原作者が井伏鱒二であるのを知っていたぼくは驚かなかった。
 「駅前旅館」は上野駅前の旅館の番頭が森繁、ライバルになる旅館の番頭が伴淳三郎、ロカビリー歌手みたいな旅行社の添乗員がフランキー堺、森繁の雇い主が森川信で、原作があるから、まだ真面目なものだった。監督は豊田四郎
 これがヒットしたので、井伏さんから離れ、上に<喜劇・・・>と付けて、「喜劇・駅前団地」といった、いわゆる「駅前」シリーズが二十四本作られている。「社長」シリーズより地方向きといった泥くさい作品群だった。

小林信彦はもしかしたらこれを記憶だけで書いているかもしれないが、大好きなはずの淡島千景に一言もふれていないところをみると、観てないのかも。「喜劇 駅前弁当」(名作という評判らしい)は‘たまたま観た’と書いているし。
「旅館」の方の脚本は八住利雄だが、今回の特集で上映されるその他の「駅前」シリーズは、「団地」も含めて長瀬喜伴が担当している。
私は、「団地」の脚本のほうがこなれていると思った。「駅前旅館」の方は、井伏鱒二の原作の印象が強いせいもあるが、とくにフランキー堺の台詞が無駄に生硬でうるさく感じられた。ただ、映画としてどちらがいいのかといわれたら、「駅前旅館」の方なのかもしれない。森繁久彌が‘男前’で、むしろ‘色っぽい’。
それに、女優陣がいい。旅館の女将に草笛光子森繁久彌とワケありな女ふたりが淡島千景淡路恵子なのだけれど、このふたりがほんとにきれいで色っぽい。
性をめぐる社会的規範がまだしっかりしていた時代のラブシーンは、しぐさや表情で多くを語ることができたのだろう。今は自由になったようで、実は豊かさを失ったのかもしれないとそう思った。
「駅前団地」の方で、思わず乗り出して(のけぞって?)しまったのは、舞台が百合ヶ丘だったこと。
今朝、この映画を観るために通過してきたその駅ではないか。
坂本九が高台から造成中の団地を見下ろすシーンがある。まるで、「スラムドッグ$ミリオネア」で、主人公の兄弟たちがムンバイの町を見下ろすシーンみたい。
舗装した道路なんてどこにもない。土地成金の伴淳三郎の息子は、大学進学をやめて養豚業を始めるのである。
百合ヶ丘について桂米團治がこういっていた。武庫之荘の住人は尼崎市民を名乗りたがらない。百合ヶ丘の住人が川崎市民を名乗りたがらないのと一緒です・・・と。
坂本九のあの使われ方は、彼が当時どれほど人気があったかよく分かる。
こちらでの森繁は外科医で、ヒロインの淡島は対立する内科医。「You got Mail」のトム・ハンクスとメグ・ライアンみたいな感じがした。
今回、朝一番の上映であったせいもあるか、観客にお年寄りが多かった。やっぱり、笑いのツボって年齢でちがうんだなぁと実感した。が、あの笑いの多くは‘懐かしさ’に由来するだろう。
同じ映画館のナイトショーでは、ひし美ゆり子特集がやっていた。これに心惹かれる心理は、懐かしさ由来成分100%である。