「ゴールデンスランバー」

アヒルと鴨のコインロッカー」、「フィッシュストーリー」に続く、伊坂幸太郎原作、中村義洋監督。
去年、わたしが観た映画のなかでは、「フィッシュストーリー」よりも、伊坂太郎原作では、「重力ピエロ」の方がよかったし、中村義洋監督では、「ジェネラルルージュの凱旋」の方が好きだった。
中村義洋という人は「ウマイっ!!」監督だと思う。
伊坂幸太郎ストーリーテリングがウマイようなので、中村義洋伊坂幸太郎の組み合わせでは、巧さがバッティングしてしまって、「フィッシュストーリー」に関してはギクシャクするというか、うわすべりするように感じもした。あくまで個人的な感想だけれど。
でも、今回の「ゴールデンスランバー」は、競馬にたとえると馬なりに走らせていくようなスムーズな展開で、余白に広がりを感じさせる、スケールの大きなエンターティメントに仕上がっていると思う。
役者が「フィッシュストーリー」と「ジェネラルルージュの凱旋」の混成になっているのも楽しい。
2時間20分という尺の長さを感じさせない。オチもあざやかだった。
そして、特筆しておきたいのは、「重力ピエロ」のときにも書いたけれど、伊坂幸太郎の世界観には、切り口の新しさを感じている。
距離感ともいえるし、スピード感ともいえるし、バランス感覚といってもいいかもしれないが、「終わった時代は後ろに置いていくからさ、悪いけど」といわれている気がするのだ。ポスト・コンプライアンスとでもいおうか、正邪の対立はすでに止揚しましたという感じ。
ただ、そのバランスは、針の先が触れただけでも一気に暴走してしまうような、狂気をはらんだ危うい均衡だと感じられる。
低いレベルで均衡を保つことはもちろん簡単だが、これからの時代には、高いレベルで、しかも強いテンションで、危うい均衡を保たなければならないことが多くなるだろうと予測できる。
おそらく伊坂幸太郎は、そういう時代の感覚に皮膚で接している、もっともエッジの効いた作家の一人なのだろうと思っている。