稲垣仲静と稲垣稔次郎

板橋区立美術館を訪ねたので、おもに路線図の都合で、中村橋にある練馬区立美術館に立ち寄ったのだけれど、この企画展「稲垣仲静・稔次郎兄弟展」が大収穫だった。
明治生まれの京都の画家兄弟。
兄・仲静は25歳で夭逝したのが惜しまれる。みずみずしい感受性で対象をとらえた絵は、どれも鮮烈な印象を与える。
特に<太夫>は、はっとさせられる美しさ。余計な雑念があると、ああいう美は指の間からこぼれ落ちてしまうと思う。
<鳴ける猫>というスケッチがあったが、あれが完成した絵をみたかった。
弟・稔次郎は、染色工芸家として後に人間国宝にも認定されている。
「兄貴には負けへんで」といつも口にしていたそうだが、全然負けていないし、しかも、まったく資質が違うのが面白い。
スイスで人気を博している、日本人の切り絵作家蒼山日菜のことを以前このブログでも紹介したけれど、稲垣稔次郎の型絵染めは、画面の構成が切り絵と通じている。
その完全な二次元の構成で表現される、嵐山、伏見稲荷八坂の塔などの京都の町がすばらしい。
この種の二次元の表現は、日本人が傑出している。もしかしたら、日本人にしかできないのかもしれない。
それから付記しておくと、この展覧会に甲斐庄楠音が出品されていた。ちょっと‘京都’にうならされた一日だった。