今回のメドベージェフ大統領の、国後島訪問の背景には、去年の麻生政権の拙劣な対応がある。
新聞やテレビは、自分たちがジャーナリズムの主要な存在であるという自負があるなら、その背景に注意を喚起するくらいはしてもよさそうなものだ。
そもそもメドベージェフは、去年の二月ごろには、北方領土の3.5島返還まで腹をくくっていたと見られていた。
ところが、自民党政権末期の政治家と官僚たちは、永田町にこもって「日本固有の領土」という、中身のないお題目を唱え続けるばかりで、何も手を打たなかった。
平安末期の貴族たちが、内裏にこもって神風を祈っていたのと大して変わらない。
詳しい経緯を知って、ため息をつきたい人はこちらへどうぞ。
菅政権がこのときの麻生政権の轍を踏まないことを願っている。
個人的な意見としても、また、常識的に考えても、ロシアは日本と友好な関係を築きたいと考えているのは間違いないと思う。
なぜなら、ロシアにしても、表向きはどうあれ、中国の存在を脅威に感じていないはずはないからだ。
また、日本にしても、中国とロシアを同時に敵に回すくらい馬鹿げた戦略はない。
ロシアを味方につければ、日米露で中国を封じられるが、日本がロシアを敵に回せば、ロシアは、いやでも中国に付くしかない。そのとき、アメリカが中国とロシアを敵に回したいと思うかどうか。
ロシアが日米と共有している価値観は民主主義であるのに対し、中国と共有しているのは、旧社会主義という価値観だ。
ロシアがどちら側に魅力を感じるか知らないし、あるいは、どちらの顔もうまく利用したいと考えているかもしれないが、いずれにしても、日米を敵に回したいと思っているはずがない。
前原外相には、羽田の国際化を実現したように、コペルニクス的転回を実現してもらいたいと思う。
北方領土問題は、だいたい三つの問題が混在している。
1. 日本とロシアの領土問題(国境はどこかという問題)。
2. 大日本帝国とソビエト連邦とで戦われた戦争の戦後処理問題。
3. 旧島民への補償問題。
1については、カニと昆布が国益より大事ということでないかぎり、たいした問題じゃない。日本人のうち何人があんなところまで行く?行って何するの?
2と3が絡んでくるから、国民が感情的になるのだし、それをマスコミがあおる。‘高見の見物の大衆迎合’というやつだ。
逆に言えば、2と3が納得いく形で解決できれば、1の解決はけっこう簡単だということになる。
菅政権は、レアアース問題以降、インド、ベトナム、モンゴルなどと、よい関係を築いて、東アジアにおける発言力を失わないように努力しているし、その努力は実を結びつつあると思う。TPPに断固参加しようとしているのもその一貫した姿勢として正しい。
ロシアとの関係も、同じ姿勢で臨んでほしいと思う。
ロシアと友好関係を結べれば、その経済効果は計り知れない。私の知っている限り、今ですら、モスクワ以東でロシアを走っている車は、ほとんど日本車なのである。