
- 作者: 江國香織
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/11/05
- メディア: ハードカバー
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逆に言えば、魅力的な家長が、確固とした価値観をもって家族を率いているとき、よかれあしかれ、その魅力的な家族が、急速に勃興して、どうやらまた、それと同じくらい急速に、しぼんでいくらしい、日本という国の社会と格闘している姿は、一つの家族のクロニクルにとどまらず、私たち自身の時代精神にとっても、懐かしいうつし鏡になるようだ。
江國香織の『抱擁、あるいはライスには塩を』は、そうした家族の、三代にわたる長い物語を、時代や語り手を、自由自在に飛び越えながら綴っていく。
男たちをめぐる、女たちの物語ともいえる。愛すること、愛されないこと、愛されること、愛さないこと、の交わらないベクトルが、共鳴しあって、複層の伽藍を築き上げている。
最後の、睦子の章を読み終わったとき、実際に、聴覚に訴えかけられたかのように錯覚した。その家の、語られない物語まで、聞こえかけたような気がした。
SPA!の対談で、福田和也は、この小説を「2010年のベスト」と評していた。業者さんにそこまで言われちゃうと、素人としてはそれ以上付け足すこともない。安心しておすすめできるというものだ。