原子力損害賠償支援機構法

 「原子力損害賠償支援機構法」なるものがあれよあれよというまに成立した。ずいぶんとスムーズに成立したものである。
 例の、東京電力から自民党への組織的な献金が明るみに出てから、政治とカネについての追求がぱたりと止んだ気がするのは、地デジ難民の気のせいだろうか。
 自民党東京電力の忠実な僕であることはうんざりするほどよくわかったが、電力労組を支持団体に持つ民主党もまた、東京電力に強くあたりたくないのだとしたら、結局のところ、国会の論議自体が出来レースにすぎないことになるだろう。
 週刊SPA!に連載を持っている城繁幸は、この法律は「東電救済法案」にすぎないと批判している。面白いなと思ったのは、自民党民主党がこの件に関して対立しえないなら、この国の対立軸は労使間にあるのではなく、「大企業とそれ以外」にあるという指摘。
 高度成長期に、田中派支配のもとで、構造的に固定されてしまった、政官財の癒着とその既得権益を解消するためには、自民党民主党という対立は意味を持たない。今の国会を見ていると、鳩山由紀夫石原伸晃が密談していたり、仙石由人が自民党と勉強会を開いたり、まるで55年体制自民党社会党のなれあいに先祖返りしたかのようだ。
 以前から書いているように、この原発事故に関しては、民主党がその気になれば、自民党を攻撃する材料にこと欠かないはずだが、どういうわけか、自民党とタッグを組んで自分の党の党首を引きずり下ろすことに躍起になっている。これはつまり、自民党民主党も、既得権益のためには、政党政治の原則などかなぐり捨ててしまうのが本性だということなのだろう。
 私としては、菅直人解散総選挙をやってほしかったのだけれど、どうも、あの「脱原発依存」の個人的見解演説から潮目が変わったようだ。
 これも前に書いたように、「脱原発依存」では、争点にならない。週刊文春に、「あなたは原発をどうしますか」という国会議員へのアンケートがあって、それによると、回答を寄せた議員の67%が「脱原発を目指すべきだ」と答えている。概論としての「脱原発」には大半が賛成だということだ。
 しかし、一歩具体策に踏み込んで、「電力の自由化」、「発送電分離」といったらどうだろうか?あるいは、「東電の解体」といったら?
 「脱原発」は20年、30年さきのことだが、発送電の分離は選挙後すぐにでも具体化できる。つまり、「発送電の分離」は、「脱原発」に本気かどうかの踏み絵になる。だから、「電力自由化」は、選挙の争点になり得る。
 しかし、日経WEBにあった「政府が検討している向こう3年間のエネルギー需給安定策の内容」に、「電力自由化」、「発送電分離」の文字はなかった。

安定策は、菅直人首相が議長を務める政府の新成長戦略実現会議の分科会である「エネルギー・環境会議」(議長・玄葉光一郎国家戦略相)で議論している。国家戦略室と経済産業省を中心に検討しており、詳細を詰めて8月上旬にも公表する。

とあるが、国家戦略室は、経産省からの出向を含む3チームに分断され、冷戦状態だそうだから、実効性のある結果が出る期待は持てそうもない。
 そうこうするうちにこの東電救済が決まってしまったわけ。
 そうなると、原発事故の賠償も国民の負担、再生エネルギー買い取り価格も国民の負担、というようなことが可能か、という疑問が湧いてくる。
 6月の時点ですでに、ぐっちーさんがSPA!に書いていたことだが、東京電力は倒産して、会社更生法扱いにする。

そうすれば、株式を減資して3兆円が出てきます。そして、見込みを間違った銀行融資を、通常の会社更生法と同じく再建カット。合計5〜6兆円は出てきます。そのうえで給与、従業員をリストラして今の日本航空のように再生を図るのが「常識」。東京電力と銀行がすべての負担を国民に押しつける今のスキームは論外です。

 どうもその論外なことになるようで、しかも、再生エネルギーの方も発送電の分離が実現しなければ、事実上、ご破算だろうか。
 飯田哲也の「議論百出する発送電分離の要所は、送電網の全国一体化による安定供給とイノベーション
http://diamond.jp/articles/-/12918
という記事があるが、政治にこそ、こういう具体的な道筋を示してもらいたいものだと思う。