「ゴーストライター」

 小林信彦は、それこそ「書痴メンデル」ではない、あれほど記憶力がよい人もいないはずなのだけれど、今週の週刊文春のコラム、内田有紀の「ばかもの」は、前にも取り上げていたのに、なんで2回言うたん?・・・。もちろん、2回取り上げちゃいけないわけじゃないけど、ファンとしては余計な心配をするわけ。とうとう来たかと思って。
 そのコラムで、邦画のオススメ「ばかもの」に対して、「洋画でこれ一本といえるのは」とあげていた、ロマン・ポランスキー監督の「ゴーストライター」を観に行った。
 「ゴーストライター」を褒めていたのは、小林信彦だけではない。日本版ニューズウイークの映画評も「優美で完成された傑作」とほめちぎっていた。
 英語がちゃんと聞き取れればよかったのだけれど、オリヴィア・ウィリアムズが演じる首相の奥さんが
「‘ゴーストじゃない’作家になろうとは思わなかったの?」
ユアン・マクレガーが演じるゴーストライターに尋ねる。
「あなたはどうなんですか?自分が政治家になろうとは思わなかった?」
と聞き返す‘ゴースト’。ワインを飲みながら
「スピリッツ(蒸留酒)の方がいいな」
とかいう、あの会話がラストに効いている。ゴーストに乾杯というわけ。
 ピアース・ブロスナンが演じている英国首相のモデルは、たぶんトニー・ブレアなんだろう。思えば007やサンダーバードの時代から、英国の自画像はずいぶん変わった。大戦や冷戦が身近であったころは‘正義’がもっと単純だった。あるいは、‘正義’が単純だったからこそ戦争になった。