「無常素描」

knockeye2011-09-25

 シネマ ジャック&ベティで、映画「無常素描」を見てきた。
映画『無常素描』公式HP 映画『無常素描』公式HP
 映画としていいとか悪いとか、そういうことをいう意味があるだろうか。とにかく現場に駆けつけてカメラを回したことに意味がある。
 観客としても、ただ観に行くことに意味がある。中身は、あの大震災発生直後から、テレビでもネットでもさんざん見てきたことと大差ないことは当然だ。
 それでも驚かなければならないのは、この映画に映っている被災者は、テレビやネットでさんざん見てきた被災者とは、また別の被災者だということ。どれほどカメラを回し続けても、悲劇の全貌を描き尽くすことはできない。
 むしろ、カメラがむざむざと晒し出すものは、人の無力さと言葉のむなしさ。おそらく、何年と立たぬうちに、これらの被災者の言葉は忘れ去られてしまうに違いない。その意味でたしかに、この映像が描いているのは、被害でも悲劇でもなく、無常なのである。
 私自身、この映画と同じ頃に、福島に行った。そのとき書いたとおり、とりあえず行っただけだ。でも、それだけでもよかったと思っている。
 このところ、週末どこかに出かけるたびに、人身事故でダイヤが乱れる。ヴェネチア展の帰りにも、線路内に立ち入った人がいたとかで、電車の到着が遅れた。アナウンスが「人身事故の影響」ではなかったので、むしろほっとした。
 ロラン・ベルモンテという映像ジャーナリストがパンフレットに寄せた一節が心に引っかかった。
「・・・外国に行くと、いかに日本人の心が痛んでいるかが感じられる。日本は未だに津波のなかにいるように見える。」
 思えば、この二月に、この同じジャック&ベティで、「その街のこども」劇場版を見たのだった。阪神淡路大震災で被災した子どもたちが、ようやくほっと息をつけたのかなと思っていたのに。
 私たちはまた長い苦難の道を歩き始めた。無駄なことでも何かをすること、甘っちょろいことでも何かを言うこと。どうせそれ以上のことは誰にもできない。
 私たちはまだ津波の中にいるというロラン・ベルモンテの言葉を、毎日のように起こる人身事故はリアルに感じさせる。
 「無常素描」の上映は、ジャック&ベティで、10月7日まで。