フィリップス・コレクション、ヴェネチアン・グラス、エッフェル塔

knockeye2011-10-08

 私は違うが、世間は三連休なんだし、国立新美術館だし、混むのではないかと早めに出かけたが、ゴッホと違って、拍子抜けするほど人が少なかった。むしろ、このあと訪ねたサントリー美術館の方が、会期が10日までということもあるのか、混雑していた。
モダン・アート,アメリカン−珠玉のフィリップス・コレクション−/国立新美術館/2011年9月28日(水)〜12月12日(月) モダン・アート,アメリカン−珠玉のフィリップス・コレクション−/国立新美術館(東京・六本木)企画展示室1E/2011年9月28日(水)〜12月12日(月)
 第二次世界大戦を経て、芸術の都がパリからニューヨークへ遷都していく時代を、ジョセフ・コーネルや草間彌生は生きたわけだが、今回展示されていた絵には、そういう世界の中心としてのアメリカではなく、もっと武骨で、土着のにおいのするものが多かった。
 19世紀末のロマン主義やリアリズム、また、印象派の絵画だけを見ていると、まるで戦前の日本の洋画家たちの絵を見ているような気がした。モーリス・プレンダーガストなど、個性のきらめきは見られるけれど、全体としてはやはり、ヨーロッパのアートシーンを追いかけて苦闘している。
 ジョージア・オキーフ(彼女は草間彌生に渡米のきっかけを与えた)の<私の小屋、ジョージ湖>には、‘絵画版ウォールデン’を思わせる力強い自然への信頼、アメリカの土のにおいを感じた。シンプルな平行四辺形の面に、自分の暮らす小屋の屋根を描ききる態度には、美術史の裏付けに頼らず対象にむかい、そこにあるものを描く確信的な態度があると思う。
 近代生活や都市を描く画家たちにも、それと同じことを感じる。エドワード・ホッパーの<日曜日>、<都会に近づく>、ジョン・スローン<冬の6時>、チャールズ・シーラー<摩天楼>、ステファン・ハーシュ<工場の町>、ラルストン・クロフォード<船と穀物倉庫 NO.2>(横山裕一かと思った)など。‘アッシュカン・スクール’(ゴミ箱派)と呼ばれたそうだ。
 結局のところ、個人的にアメリカの絵画でいちばん好きなのは、こうした近代の生活をウソをつかず描いている絵だ。 
 だが、都市を描くことが自然を描くことと決定的に違うのは、都市の人工物にはどれもそれをデザインしたオリジナルのデザイナーがいるということ。たとえばエッフェル塔を描いた絵に、画家は100%のオリジナリティーを主張できない。なので、都市を描くことは、ジョゼフ・コーネルアッサンブラージュや、リチャード・エステスのフォトリアリズムのように、描く行為の否定へと近づいていく。
 エドワード・ホッパーの<日曜日>も、よく見ると、写真の切り抜きを貼り合わせているように見えなくもない。<都会に近づく>の線路も、あれでほんとうに列車が走れるだろうか?
 もちろん、鉄道の設計図ではないのだから、走れるかどうかは重要ではない。いいたいのは、ホッパーの都市の風景が、ただの写実ではなく、きわめて象徴的だということ。描かれてるのは、象徴としての線路であり、トンネルであり、コンクリートであり、窓なのだ。都市の風景は、そこに描かれるほとんどのものが人工物であるために、大きめのスティルライフ(静物画)といった風情を帯びてくる。
 また、アメリカの絵を語る上でかかせないのは、移民たちが持ち込んでくる異文化の多様性。ジェイコブ・ローレンスの<大移動>の連作は、今回の展示のなかでも異彩を放っている。国吉康雄もそう。こうした異文化の闖入が、常に文化の更新を迫ることがアメリカという国の長所であり続けていてほしい。
 ニューヨークと同じく、ユニークで象徴的なもう一つの島にまたもどる。
 サントリー美術館で「あこがれのヴェネチアン・グラス」。これは先週の流れ。レースグラスの美しさは、茶道具のそれと相通じる。多くの人の掌に愛されてきた美しさだ。
 サントリー美術館では、和ガラスも展示されていた。‘練上手’とか‘藍色ちろり’とか、まず日本語にやられてしまった。
 不思議だよねぇ、日本語の命名力というか、なんというか。たとえば‘米色青磁’とか、‘砧青磁’とか、‘井戸茶碗’も、由来がわかるようでわからない。‘井戸の高台に梅花皮(かいらぎ)があるね’とか、なんかわかんないけど、とりあえず声に出して言いたいもん。
 「藍色ちろりが手に入りました。酒でも飲みに来ませんか」
とかたよりが来れば、遠方でも出かけようかという気になる。飲めないですけどね。
 アンリ・リヴィエールの<エッフェル塔三十六景>が全点展示されているという情報を手に入れたので、ついでに立ち寄った。ニューオータニ美術館。
 さっきエッフェル塔云々を言ったのは、実はこれの印象があったため。ほんとは摩天楼とか書くべきだった。

 北斎の<凱風快晴>、<山下白雨>、<神奈川沖浪裏>は、やはり名画だと思う。
 ところで、いつの間にか富士は冠雪している。よい天気だったけど、半袖だと少し肌寒く感じた。
 新宿駅でだれかが線路内に立ち入ったとかで、帰りのダイヤが少し乱れた。