「ポスターガール IVAW 明日へのあゆみ」

knockeye2012-06-23

 自慢にはならないが、日当たりの悪い部屋に住んでいる。
 それで、なんとなく寒い気がして、上着を羽おってでかけたが、気温はさほどでもないものの、湿気がthickな感じで、重たい空気をかき分けるようにして歩いていた気がする。
 ジャック&ベティのロビーで、コンビニで買ったCoolishをチューチュー吸っていたら、睨んでいるおじさんと目があった。その人が木村修監督だった。そういうところは、元高校の先生の習性が抜けきっていないのかも。高校の恩師、三善先生を思い出した。
 「ポスターガール」 と「IVAW 明日へのあゆみ」は、残念なことにこの土日だけの限定上映なのだそうだ。
 おととしの6月に、東京都写真美術館で「ハーツ・アンド・マインズ」、「ウィンター・ソルジャー」というヴェトナム戦争ドキュメンタリー映画を見た。ここにまだそのときのサイトが残っているが、この帰還兵の言葉が印象的だった。
 インタビュアーが
‘ Do you think we've learned anything from this ? ’
「私たちは何かを学んだと思いますか?」
と聞くと、その帰還兵は
‘ I think we're trying not to.’
と答えた。
 あのときのヴェトナム帰還兵たちは、インタビュアーに「なぜ髪を伸ばしているのですか」と聞かれるほど(さてこの意味が今の若者たちに伝わるだろうか?70年代の若者にマスコミはこんな質問をしていた)若かったのだけれど、40年の時を隔てた今回の映画に、「VIETNAM VETERANS AGAINST THE WAR」とバックプリントのあるスゥエットで、さりげなくあらわれれた、あるいは小太りの、あるいは白髪交じりのおじさんたちの中に、思わずあのときの兵士たちの面影をさがしてしまった。
 ちなみにベトナムのころからただ1人のGIカウンセラーを続けているレイ・パリッシュという人は、長く伸ばした白髪を後ろで束ねていた。「IVAW 明日へのあゆみ」の主人公、アーロン・ヒューズをカウンセリングした人である。‘IVAW’は‘IRAQ VETERANS AGAINST THE WAR’の略。
 アーロン・ヒューズという人は、とても魅力的な人に思える。帰還後、二年間誰ともしゃべらない日々が続いたが、その後、ヨーロッパに渡り各地の美術館を見て歩いた。一日中美術館で過ごしたという。第一次大戦下でゴヤはいったい何を描こうとしたのか、ピカソが第二次大戦中に描いたことは何だったのかと考え続けた。そして、ピカソゴヤが文化や国の違いを超えて人々を結びつけるのに、自分はそれを踏みにじる側にいたと気がついた。
 私たちは、こうした言葉が、思想としてではなく、体験の表現として語られていることに価値があると気がつかなければならないだろう。彼が語っているのは、誰かさんの○○主義ではなく、まぎれもなく彼が体験した彼だけの真実であり、だからこそ、その言葉は彼に聞く価値があり、聞く人はその言葉に引きこまれる。
 だが、どう思うべきなのだろうか?人はこれほどまでに愚行を繰り返すと思うべきなのだろうか。それとも、何か別の答えがありますか?
 トークショーで、木村修監督は、
「彼等の罪ではない」
といったと思うが、しかしやはりそれはおかしいと思う。彼に罪がないと言えるのは、自分自身罪がないものだけで、私たちは誰もそれを言う権利があるほど無垢ではない。私たち誰も彼等に罪がないとはいえないし、わたしたちに罪があるように彼等にも罪があるとしかいえないだろう。
 それでまた思い出すのは「ウインター・ソルジャー」なのだが、ある帰還兵がベトナムで起こったことを集会で報告していた時のこと、一人の女性が立ち上がって、
「あなた恥ずかしくないの?」
と叫んだ。
「その女の年を聞いたら37歳だという。だから言ってやった。
『オレがベトナムに行ったのは19のときだ。そのとき、あんたは選挙権を持っていたはずだ。あそこで起きたことに責任があるのは、あんたの方だ』
ってね。」
 第二次大戦が終結して、当時の日本人は戦争を永遠に放棄する選択をした。その結果として、わたしたちの国は衰退しただろうか。
 今、福島で未曾有の原発事故を引き起こしたにもかかわらず、脱原発を宣言したのはドイツやイタリアで、この国の現首相は、何の反省もなく今までの原発行政を続けようとしている。おそろしいのは、大飯原発が再稼働することではなく、‘こんな政治家が’原発を再稼働させることなのである。
 余談かもしれないが、この映画で余得だったことは、オキュパイウォールストリートのデモが起きた原点がやっとわかったことだ。あれに関しては、なんだかよくわからない感じがつきまとったままだったが、もとはウィスコンシン州における労働運動を規制する法案に反対して、議会を占拠したことが発端だったらしい。たいていの運動がそうなのかも知れないが、オリジナルにはちゃんと中身がある。ウォールストリートのデモは説得力に欠けていた。
 更に蛇足ながら繰り返すけれど、今日と明日だけの限定上映なので、興味がある方は覗いてみてもよいかも。横浜美術館マックス・エルンストも明日が最終日なので、これとセットで横浜を訪ねてみるのもよいかも。そごう美術館では伊藤若冲もみられる。
 ちなみにマックス・エルンストも帰還兵なのである。